中部大学教育研究12
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しかしそれだけではなく、現地で数週間の日常生活を送ることで、中国の(あるいは北京の)生活感覚を体得して中国という地域に慣れるとともに、日々自分の目でとらえた中国の日常の姿を通じて、学生の中国イメージを広げ、「中国研究」に入る準備をさせるという意図も持っている。研修期間中に、学生から「予想以上に中国(北京)が発展している」「貧富の格差をさまざまな側面で目撃した」「物価の安さと場所(店の種類など)による価格差」「日本企業や日本製品の進出の多さ」などの感想を聞くことも多く、海外での生活で重要な、他国を観察することを通じて日本という国や社会を相対的にみる視点が育成されつつあると言えるだろう。本学科では、このような側面をとらえ、学生自身が、中国語学習だけではなく中国研究(中国理解)の双方をしていることに気付かせるため、研修中に簡単な観察調査を行わせている。その結果を研修中の活動報告会、帰国後の演習科目「基礎演習B」で学生に報告させ、これを土台に大学祭での展示のためのパネル作成を課している。観察調査では、北京研修中に学生各自が関心を持った「現代の中国(北京)」や「中国の文化・社会」「ビジネス」「日中関係」などに関する主題で写真撮影をさせている。これを研修中に1-2回実施する活動報告会で各自発表させ、主題を次第に明確にする。その上で、帰国後には演習科目である基礎演習Bにおいて、パワーポイントなどを用いて発表させる(写真1)。さらにこれをもとに、大学祭において展示するパネルを作成することとしている(写真2)。これまで学生は、さまざまなテーマを選択し、発表しており、そのレベルもさまざまである。しかしながら、「中国語だけでなく中国そのものについても学ばなければならない」と考えさせる契機になっているものと考える。特に、もともと中国文化や中国でのビジネスに関心をもって入学した学生は、この課題に熱心に取り組む傾向がある。これに加えて、さらなる中国理解を進めるために、春学期に実施した入門科目である「中国研究入門A」などにおいて教授した内容と関連させた課題を学生に課している。帰国後初めての基礎演習Bの授業において、表1に示すような、「夏期語学研修から帰国したみなさんに考えて、調べてみてほしいこと」と題する宿題を課している。これは、研修で学生が見聞きした事柄に関連させた内容の質問を投げかけ、それについて回答するように指示したものである。たとえば以下のような質問は、中国の政治体制や経済に関する基本的な理解を問うものである。「現在の中国は、みなさんも見たとおり、経済的に豊かな人と豊かでない人の格差が大きい国です。①みなさんはどのようなところでそれを感じましたか?また、もともと中国はそういう国ではありませんでした。②今のようになったのは何故なのでしょうか?」中国を理解するうえで、社会主義国であること、それが市場経済化したことは、きわめて基本的な事実であるが、高校で日本史だけを履修した学生などは、このような基本的な理解が十分でない場合もある。次の質問は、かつての中国の社会制度である「単位」に関するものである。「みなさんが過ごした外交学院の敷地には、なぜか団地のような建物が建っていて、おじいさんやおばあさんなど、一見大学とは関係ない人がたくさん住んでいたのに気がつきましたか?①これは何故でしょうか?②またこの人たちはどういう人たちなのでしょうか?」「単位」については1年春学期の「中国研究入門A」でも触れる内容であり、この質問も、やはり学生に、―38―澁谷鎮明・黄強写真1基礎演習Bにおけるテーマ発表会写真2大学祭の学科パネル展示

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