中部大学教育研究12
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1はじめに今年、完成年度を迎える中国語中国関係学科は、実践的な中国語能力の習得と、人文・社会科学分野から世界の中での中国理解をすすめることを教育目標としている。中国語中国関係学科は、国際関係学部に属していることを最大限活かすため、単なる外国語学科ではない教育目標とカリキュラム構成を持っている。またこのような語学学習を行いつつ、それをグローバルな問題や海外の各地域の理解に活かすという視点は、本学に限らず多くの国際系学部が持っている目標であるだろう。近年では、各地の外国語大学において「国際教養」が提唱され、これは現地の文化や社会の理解にとどまらず、国際問題の理解も重視するという方向性をもっている。こうなると、語学学習とその語学の通用する地域の理解や、国際関係を合わせて考えるという点で、本学科とこれらの大学は実はほとんど同じ目標を持っていることになる。ただこのような目標を実現することはそれほど容易ではないように思われる。語学学習とその言語を使用する地域の理解を有機的に結び付けることは、これまでの筆者の経験に照らしても難しい。なかなか「言葉を学ぶほどその地域に関心が増し、地域の理解が深まるほどその言語に関心が高まる」というような相乗効果は簡単には起こらない。これはおそらくこれまで日本の多くの国際系大学、あるいは学部が抱えてきた悩みと共通である。「語学だけではダメ」ということは、外国語系学部や国際系学部では、ほぼ共通理解となっているものの、どのようなカリキュラムを組み、どのように教授するのかについては、学生の意欲や知識の程度もあり、十分に合意しうるような手法はないように思われる。本報告では、このような認識のもとに、中国語と中国という地域に関する学習を軸とした中国語中国関係学科において実施された、語学学習と中国理解を結びつける試みについて報告したい。2中国語中国関係学科カリキュラムにみる語学学習と中国研究中国語中国関係学科では、中国語能力習得と中国理解が教育内容の2つの軸になっており、カリキュラム自体もそのようになっている。前者の軸は「中国語コミュニケーション科目」群で、「中国語Ⅰ~Ⅷ」「ビジネス中国語A・B」「資格中国語A・B」などの科目が配置されている。また「学外実践科目」群にも、1年次の中国語学研修に対応した必修の「留学中国語」科目がある。後者は「中国研究科目」群で、中国を理解するために、「中国政治論」「中国経済論」などの社会科学系アプローチをする科目、「中国歴史研究」「中国思想比較研究」などのような人文科学的アプローチを行う科目が配置される。これら2つの科目群は、本学科のコアともいえるだろう。それ以外にも本学科には、中国語教員資格用の「中国言語研究科目」なども存在する。このようなカリキュラムは、中国語と中国理解を軸に、日本の中国関連企業で中国担当として活躍できる人材や、中国語圏に長期滞在して働くことのできる人材、中国語教員など、それなりの人材像に対応して作られている。このような方針があるものの、本学科の低学年生は多くの場合、「中国語」に関心が集中しがちである。また長期留学をした学生は、ふつう中国そのものに関心が深まるが、全員がそうとは限らない。また上記のカリキュラム上では、両者を結ぶための科目は想定しておらず、1~4年まで各学期に開講する演習科目を使う以外にはないと思われる。本学科では、このような中国語と中国理解の両者を結ぶ必要性が認識されるようになり、この演習科目を用いて、両者の架け橋を作るべく、いくつかの試みが行われた。31年夏期語学研修における観察調査と演習科目における課題作成本学科では、1年次の夏季休暇中に全員必修の語学研修を課している。この研修では、本学の協定校である北京市に所在する中国外交学院において、集中的に中国語を学習することに目的がある。とりわけ、①早い時期に正確な発音・声調に接し、これを身につけることで「使える」中国語の基礎を作り上げること、②この基礎をもとに2年次以降に中国語検定、HSKなど中国語資格取得などを目指す契機とすることなどが主たるねらいである。―37―中部大学教育研究№12(2012)37-41語学学習と海外地域理解をつなぐ-中国語中国関係学科における「中国研究」の試み-澁谷鎮明・黄強

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