中部大学教育研究12
41/140

1はじめに「地域の防災と安全」は、平成23年度から本学の特色ある科目の一つとして特別課題教育科目に位置づけられた。本科目は、平成22年度から「地球環境論」の一部として実施されたものであり、平成24年度より新たに独自の科目として実施されている。本報では、「地域の防災と安全」の取り組みについて概説したい。本学には、防災・減災をテーマとする研究者が多数在籍する。例えば、全学共通教育部の教員は地震のメカニズムについての教育・研究を、工学部都市建設工学科、建築学科の教員は地震災害、水災害の特徴と対策の研究・教育を、人文学部歴史地理学科の教員は地理情報システム(GIS)と関連付けて地域特性のとらえ方に関する教育・研究を、生命健康学部保健看護学科の教員は災害時の看護(特に、避難所運営の在り方)に関する教育・研究を実施している。このような活動は、災害というテーマで一つに繋がっており、互いに協働してこそ、網羅的かつ有益な取り組みとなる。一方、近年の災害の甚大化には、目を覆うものがある。東日本大震災では、想定外の津波が堤防を越え、広域かつ甚大な浸水を引き起こして、2万人を超える死者・行方不明者が生じた。さらに、平成24年8月29日には、内閣府の中央防災会議から、東海・東南海・南海地震による被害想定が示された1)。これによると、最悪の場合、全国の被害者は約32万人であるが、それぞれの防災・減災対策を施せば約6万人になると想定されている。このことから、適切な防災・減災対策が重要であることが明らかであり、その中でも避難対策は特に重要である。例えば、水災害に対する防災対策は、想定規模の洪水や津波、高潮は堤防などの構造的な施設で街を守るが、想定規模以上の現象も生じる可能性があるので、そのときには、迅速な避難を求めている。しかし、地域住民の避難行動レベルは決して高いものではない。自助(自ら身を守る)、共助(地域の人と共同で身を守る)、公助(市役所などの公的機関の働きにより身を守る)に関して、災害時には自助:共助:公助は7:2:1の比率の重要度であると認識されているにもかかわらず、平常時には1:2:7の比率の重要度と認識されている。これは、平常時は、「市役所の方が災害時に対応してくれるだろう」と期待しているけれども、実際には、「災害時には個々(住民一人ひとり)で対応しなければならない」ことを指摘している。「地域の防災と安全」は、防災・減災に関する知識を教授することによって、学生の防災知識を涵養し、専門科目へのモチベーションを高めることをねらっている。さらに、学生の災害時の適切な対応を促すことで、地域防災力の向上も期待している。ここでは、専門家を育てることではなく、地域防災力向上の根底となる防災知識の涵養を目指しており、我が国の防災対策の一助になるものと期待する。なお、本取り組みの先駆けとして、図1に示す質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)に関わる準備活動がある。残念ながら教育GPとしての採択には―27―中部大学教育研究№12(2012)27-31特別課題教育科目「地域の防災と安全」の取り組みについて杉井俊夫・山田功夫・勅使川原誠司牧野典子・武田誠・渡部展也図1地域防災力に寄与する学士力育成の連携教育のイメージ

元のページ  ../index.html#41

このブックを見る