中部大学教育研究12
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巻頭言大学教育を改善・改革する力は大学は、いつの時代においても、教育と研究を通じて学生の将来と社会の未来を創り出す社会的な責務を負っており、大学における教育は時代と社会が求める優れた人材を育成することを任務としている。つまり、教育は未来に向かっての投資活動であり、現状維持に留まらず現状打破を含めた未来開拓能力を育てる知的な事業といえる。だから、これまでにも、ほぼ10年単位で大学論や教育論の改訂版が、中央教育審議会答申とか文教関係の法令の改正として公表され施行されてきた。そして、それらはかなりの指導力を持って大学の教育現場に下ろされてきた。「個性的な大学」、「教育の弾力化」、「自主的な教育」、「自己点検評価と認証評価」、「学士課程教育」、「学士の質の保証」そして、最近の「大学教育の質的な転換」等が次々と思い出される。これらのスローガン的な課題は、大学の教育現場からの主体的な提案ではなく、その時々の社会経済情勢や政治的な判断を先行させた行政政策の一部として、財政的な裏付けも与えつつ、全大学を対象にして提案された。大学の教育現場は、「教養部の廃止、再編等」、「自己点検評価の実施」、「シラバスの作成」,「成績評価の徹底(GPAの導入等)」、「人材育成(教育)目標の明確化」、「授業時間の確保」、「学修時間の保証」等を、消化不良の状況を残しつつも、矢継ぎ早に取り入れ、形式的な整合性は保ちながらも、実質的な成果を上げるまでに成熟しかねている。これらの課題の一つ一つはそれなりにその活動成果を測定、評価することはできなくはないが、その総体が、上述の「学生の将来と社会の未来を創り出す総合的な大学教育」を実現することに有効であると判断しうる評価法がないからである。なぜなら、これらの多くの課題は大学教育を総合的に推進するための長期総合戦略としてではなく、むしろ個別の戦術論のレベルで提示されているからである。物語の核をなす主題を明示することなく、役者や小道具とか舞台装置等の部品が先行しているきらいがある。しかも、これらの多くはアメリカでの成功事例を直輸入したものも少なくないのも不安である。人づくりは国づくりであると、あちこちで言われている。人づくりと国づくりは、たとえ、先端技術の粋を集めて作ったロボットにも代替させることはできない。人だけが人をつくることができ、人を育て、社会をつくり、国をつくることができるのは、自己増殖性を基本にした生存戦略の下に、個と組織の持続的な発展プログラムを生得的に持ち続けているからである。大学という組織の持続的な発展を支える戦略も、自己増殖性を基盤とした個力の持続的な発展プログラムに内在されていると了解すべきであろう。個別の大学が大学として持続的に発展していくためには、もう一度、原点に返り、組織としての自己増殖力をどう開発し、展開し、維持し、成果を上げるかについて学を総合して研究することが求められている。

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