中部大学教育研究12
27/140

ケーションが難しい患児とのかかわりに不安な気持ちを抱きながらも、患児に寄り添い根気よくかかわることを続けることによって患児の示すわずかな表情の変化や反応に気付き、その学びを起点として患児の捉え方に変化を生じさせていた。河内ら3)は、実習でのいい経験ができたという満足感や達成感は、評価される存在としての学生自身の自己評価を高めることになり、実習そのものに対する意欲を引き出し、反応に呼応することになると述べている。今回のインタビューにおいても、重度の脳性麻痺児を受け持った学生は、学生の遊びの介入によりほとんど発語がみられない患児が嬉しそうな表情をし、言葉にならない声を出すといった患児の変化を捉えられたことに、喜びと達成感を感じていた。また、患児の状態の安定した様子や目の動きといったわずかな変化から、自分の存在を認めてくれたと実感することによって達成感を得ていた学生もいた。これらのことから、患児が発する非言語的サインを読み取ることは、学生のコミュニケーションがとれないという困難を乗り越えるための重要な要因であると考えられた。西田ら4)は、学生が体験している小児看護学実習への不安や戸惑いを教員が察知し心理的な援助をすること、そして必要に応じてモデルを示し一緒におこなうということで、学生の困難感を減少させ、小児看護学実習をより有効にする方法であると述べている。このように、教員や指導者が学生と共にケアを実施し、児の反応を読み取り、学生に意味付けしながらフィードバックすることは、障がい児と接する経験が少ない学生にとっては有効であるといえる。5.2生命への影響が大きいと考えるケアに対する困難感学生はてんかん発作時の観察や、異常姿勢や骨折のリスクを考慮した清拭、気管切開部のケアなどの生命に与える影響が大きいと感じる看護技術を実施する機会を与えられるが、自身の未熟なアセスメントや看護技術に不安を抱えながら、さらに高い個別性を求められる状況に困難を感じていることが明らかとなった。西田ら4)は、基本的援助技術が、子どもの泣きや拒否などという成長発達における特徴的な反応により実施できない援助技術の未遂行による落胆から、実習活動の停滞を引き起こしていると述べている。重度の脳性麻痺児に対して看護ケアを実践する場合、前述した子どもの泣きや拒否といった子ども自身が示す反応は少ないかもしれないが、実習開始後の早い段階で、侵襲度の高いケアを実施する必要があるため学生の心理的負担は大きいと考えられた。また、学習者が目標を達成するにあたって、目標の立て方と能力に対する自信が左右すると言われている5)。つまり、能力を伸ばすことを目標とする行動パターンと、能力が低いと判断されるのを避けようとする行動パターンである。今回の学生は困難な課題に挑戦し、失敗を成功の情報源とみなすことができる前者の行動パターンであったと考えられる。しかし、後者の行動パターンで自信の低い人は、失敗は低い能力の証拠と判断されるために、無力感になりやすいとされる。よって学生に何をどこまでさせるかは、学生の行動パターンをよく把握し、教員と指導者で十分検討すべきである。そして2週間という短い実習期間のなかで、教員は学生のレディネスを十分に確認しながら、学生が個々の患児に合ったケアを実施できるよう支援する必要がある。一方、ケアは患者の安全、安楽を第一優先とするため、侵襲度の高いケアは主として看護師がおこなうことが必須であるが、そのケアの一部に学生が参加することで、「自分は何もできない」という学生の落胆を防ぐことができる。例えば、気管切開部の吸引は看護師がおこなうが、患児の口元を拭いたりタッチングで患児をなだめたりするという行為は学生がおこなえるケアの一部である。このように何か1つでも学生に主体的なかかわりを保証することにより、学生はケアの主体者として患者との関係を構築することができ、それがあって初めて、患者からの反応を自分のケアの結果として認知できるとされており6)、学生の経験の機会を保証することが重要であると考えられた。5.3学生の障がいに対する認識の深まり学生は、講義等を通して障がいや望ましい看護師像に対して何らかのイメージをもって実習に臨んでいた。光楽2)は、障がい児に対する学生のイメージに関する調査において、2日間と短い見学実習であっても学生は障がい児をネガティブからポジティブなイメージに捉え直しをしていたと述べていた。学生時代は、自身の価値観を構築する重要な時期であり、様々な学習機会を通して障がいや看護観について深く考えることができるといえる。本調査においても、学生は実習中だけでなく、実習後も生きる意味の模索を続け最終的に自分なりの答えを見つけていた。このように、実習中に完結することなく考え続けるという行為が学びをより深めるのではないかと考えられた。しかし、今回は学生の抱く【望ましい看護師像】が、ネガティブなイメージをもつ自身の気持ちに対して、教員や指導者に相談することを躊躇させる要因となっていた。教員は、そういった感情が学生の心の中にあるということを認識しておく必要がある。教育的支援として、病院実習の前週に実施する学内実習等で、学生の障がいに対する考えを受容し自由に発言できる機会を設けることや、―17―小児看護学実習における看護学生の実習困難感と学びの実際

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る