中部大学教育研究12
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はじめに学生の学習意欲をかきたてるのに最も良い方法は、その事柄に興味を持たせることであろうと誰もが思う。2012年5月21日の朝、東海地域で金環日食を観ることができた。私は、この天体ショーは学生たちにとって特に興味深い事柄であろうと考え、現代教育学部1年生の「地球科学教育論」の授業で取り上げた。そして、期末試験に「なぜ皆既日食ではなく金環日食であったのか」を問う問題を出したところ、驚くことに、ほとんどの学生が不正解であった。本稿では、あの見事な天体ショーを観て感激し、直後にその解説を聞いたにもかかわらず、多くの学生がその内容を理解していなかった理由を探ってみた。授業の展開この授業では金環日食の日を前に、予定を入れ替え、地球や月の動きを解説し、日食や月食が起こる理由を説明した。そして「次にこの地域で金環日食を観るチャンスは29年後であり、その時天気が良いとは限らないので、今回必ず観るように」と言っておいた。幸い、このクラスの学生たちは日食の起こる当日の午前中は授業がない。その日の午後が当授業である。当日、授業の最初に聞くと60~70%の学生が金環日食を観ていた。数人の学生に感想を聞くと「すごく綺麗だった」「感激した」「雲がかかりそうであせった」等、その美しさに感動しているようであった。前の週までの説明は、日食や月食は月や地球の位置により起こるとした、簡単なメカニズムについてのみであった。月や太陽の動きは中学校理科でも扱われる内容であり、これが学生たちにとって難解な事柄とは思われない。当日は、今回の日食が皆既日食ではなく金環日食であった理由を付け加えた。金環日食の解説が突然設定されたわけではなく、天体の動きを学習する中での一コマであった。期末試験の結果金環日食は最もホットで興味深い事象であると思い、これを期末試験で扱った。問題は「今年5月21日には日本の広い範囲で金環日食を観ることができた。また、2009年7月22日には奄美大島や本州の南海上で皆既日食が観測された。どのような場合が皆既日食になり、どのような場合が金環日食になるのか説明せよ」というものである。なお、試験では、自作のノートに限り参考にしてよいとした。82人の解答の中では「・・・、金環日食は金星が地球と太陽の間を通過する場合」というのが一番多く22人、次が「・・・、金環日食は太陽と月の間に地球が来る場合」と続く。前者の解答例は金星の太陽面通過と混同している。金星の太陽面通過は、やはり6月6日に観られた。この授業においても「この一週間のニュース」として、新聞の写真を紹介した。その写真では、金星は太陽表面に黒い点として映っているもので、日食とは明らかに違う。彼らには、これも記憶に残っていないのであろうか。後者は月食の説明と混同している。答えが思いつかず、ノートを探したところ似たものがあったので、そのまま書きうつしたのであろう。こちらが期待した「・・・見かけの大きさが異なるため」という内容が含まれた解答をしたものは12人であった。他の問題の正解率は60~70%であることを考えると、ひどく低い割合であった。考察期末試験で、この問題の正解率が特に低いのはどこに原因があるのか、授業の中での取り扱いを比較検討してみた。初めに、この授業全体の進め方について紹介しておく。この授業では指定された教科書はなく、パワーポイントを使って進めている。学生にはパワーポイントに出てくる図や表から説明を省いたものをコピーし、あらかじめ配布してある。学期のはじめに「授業で解説を聞き、パワーポイントの中の説明を見てノートを取るように」などと言ってある。ここでは教師が板書をしながらの授業を想定しており、ごくゆっくり進む。ところが、この日の授業は特別な展開でもあり、当日の金環日食についての配布資料等はなかった。私が撮った日食の写真を急いでパワーポイントに掲載したもののみである。前述のように、日食に関する事柄はこれまでに十分説明済みである。授業では、皆既日食と金環日食の違いは、地球と太陽や地球と月の間の距離が変動することにより、見かけの大きさが変わることが原因であることを口頭でのみ説明した。金環日食の説明の方法は、明らかにこれまでと違っており、こ―111―中部大学教育研究№12(2012)111-113《エッセイ》学生の興味と学習意欲山田功夫

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