中部大学教育研究12
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1はじめに2010年度より、中部大学ではキャリア教育科目のひとつとして「自己開拓」という名称の授業を設置した。授業の詳細は、ハラデレック・林・間宮・小塩(2011)において詳細に述べられている。この授業は参加型ワークショップ形式のものであり、8週間にわたっておこなわれる。各週の授業は2回連続、計16回の授業時間が設定されている。毎回の作業を通じて学生間の相互作用を促すことで、意識や考え方の変化を目指すものである。小塩・ハラデレック・林・間宮(2011)は、自尊感情、進路選択に対する自己効力、セルフ・コントロール、ビッグ・ファイブパーソナリティの各指標に注目し、「自己開拓」受講者と対照群で比較を行った。そして、対照群と比較した場合、「自己開拓」の授業を受講することによって、受講生の自尊感情の向上、進路選択に対する自己効力の向上、より広い時間的展望が得られること、生活習慣を変化させるような改良型セルフ・コントロールが向上すること、勤勉性のパーソナリティが上昇傾向にあることが示された。さらに、毎回の授業時の意識調査からも、受講生が徐々に自分自身に対する自信をもつように変化していることが示唆されている。本研究では、2011年度の授業で得られた調査データについて、2010年度と同様の分析を行い、2010年度の「自己開拓」で見られた効果と同様の効果が再現されるかどうかを検討する。2方法2.1プレ・ポストテストに使用した尺度以下の尺度を、授業前後および対照群に対して実施した。いずれの尺度についても、2010年度に検討したものと同様であった。自尊感情自尊感情は、自分自身に対する肯定的な感覚を意味する。高得点であるほど、自分を肯定的に捉え、自信があり、自分に満足している傾向を意味する。2010年度に引き続き、桜井(2000)による自尊感情尺度を使用した。この尺度は「私は、自分に満足している」「私はたいていの人がやれる程度には物事ができる」などの10項目で構成されており、それぞれの質問項目に対して、現在の自分に最もよく当てはまる選択肢を「いいえ(1点)」から「はい(4点)」までの4段階で回答させた。クロンバックのα係数を用いて内的信頼性を検討したところ、プレテストでα=.77,ポストテストでα=.78であった。進路選択に対する自己効力この尺度は、進路選択に対して認知された効力予期すなわち自己効力を測定するものである。2010年度と同様に、浦上(1995)によって構成された進路選択に対する自己効力尺度を使用した。この尺度は「自分の能力を正確に評価すること」「自分が従事したい職業(職種)の仕事内容を探すこと」「一度進路を決定したならば『正しかったのだろうか』と悩まないこと」などの30項目で構成されており、それぞれの項目についてどれくらい自信があるかを「全く自信がない(1点)」から「非常に自信がある(4点)」までの4段階で測定した。この尺度によって測定された得点が高得点であるほど、進路選択がうまくいくと認識し、進路選択行動を活発に行う傾向にあることを意味する。クロンバックのα係数を用いて内的信頼性を検討したところ、プレテスト、ポストテストともにα=.92であった。時間的展望ある一時点における個人の心理的過去、及び未来についての見解が現在の発達に影響を及ぼすという時間的展望の広がりを測定する、時間的展望尺度(白井,1991)を使用した。この尺度は「私の将来は漠然としていてつかみどころがない(逆転項目)」「毎日がなんとなく過ぎていく(逆転項目)」「私の将来には希望がもてる」などの19項目で構成されており、自分自身にどれくらい当てはまるかについて「当てはまらない(1点)」から「当てはまる(5点)」までの5段階で回答が求められた。この尺度によって測定された得点が高得点であるほど、過去や未来へと広い時間的な展望を持つことを意味する。クロンバックのα係数を用いて内的信頼性を検討したところ、プレテストでα=.81,ポストテストでα=.82であった。セルフ・コントロール直接的な外的強制力がない場面で、自発的に自己の行動を統制することをセルフ・コントロールと言う。この中には、ストレス場面において発生する情動的・認知的反応の制御を意味する調整型(Redressive)セルフ・コントロールと、習慣的―105―中部大学教育研究№12(2012)105-110キャリア教育科目「自己開拓」の効果-2011年度の授業について-小塩真司・ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文・後藤俊夫

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