中部大学教育研究12
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1はじめに文部科学省は、平成23年3月「大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会」1)の報告書の中で、高齢化社会や医療の高度化、実習における看護行為の制約、社会や保健医療を取り巻く環境の変化に対応できる学士課程看護学教育の課題と指針を明らかにした。本報告書によると看護学教育は、大学教育全体の課題としての「学士力の確保に向けた課題」、専門分野に関して「看護実践能力の育成における課題」に直面しているという。これらに対応する方向性としては、「主体的に考えて行動することができ」、「あらゆる場であらゆる健康レベルの利用者のニーズに対応でき」、「就労後の新人研修へ効果的に接続することができ看護専門職としての発展につながる」教育が提案されている。近年、看護系大学に限らず大学教育全般において、学生の目的意識の希薄化や学習意欲の低下、コミュニケーション能力の未熟さが問題となっている。看護系大学における学士教育において、コミュニケーション能力は、患者のニーズに対応し、看護師や実習メンバー間の関係構築のために必要な能力として教育される。学生は、幅広い年齢層のあらゆる健康レベルの人々とのコミュニケーション能力を修得しなければならない。これまでのような同年齢同士の情報交換とは異なった、高度なコミュニケーション能力を修得する必要がある。看護系大学の場合、このような高度なコミュニケーション能力を修得する場として、臨地実習がある。成人看護学実習(以下、成人実習とする)は、成人期の入院患者を対象に生活の援助や治療、処置に伴う看護の方法を修得する3週間の実習である。学生は2~6名のグループ単位で実習病棟に出向き、1人の入院患者を受け持って、臨床の看護師である臨地実習指導者の監督の下で、コミュニケーションを含めた看護に必要な実践能力を修得する。大学の教員は、実習指導教員として、学生が行う受け持ち患者への生活援助や観察などに立ち合いサポートする。また、学生が実践を振り返り、さらに良い実践へとつなげることができるように、個人及びグループでの検討を促す。一般的に臨地実習におけるグループ活動にはカンファレンスがある。ここでは、学生間で共有すべき情報や看護過程を展開する方法などを臨地実習指導者を含めて検討している。現在、実施しているカンファレンスは、実習目標の達成に必要なグループ活動であり、課題達成に有効な方法で行われているが、グループメンバー相互の学びの場になっていない可能性がある。一部のメンバーのみが結論を導いたり、発言しない学生も存在する。そこで、カンファレンスがコミュニケーション能力修得の場になり、メンバー全員の関係性がそれによって構築されるには、どのようなグループ活動が必要かを考えた。グループ活動の方法の一つとしてジョンソン&ジョンソンら2)は、協同学習の考え方を用いた方法を提唱している。協同学習は、単なるグループ活動ではなく互恵的な協力関係やグループ全体の目標に対して個人の責任を果たし、メンバー全員で課題を達成することに重点を置いた考え方である。また、互恵的な協力関係を促進するためには、コミュニケーション能力の修得に有効な社会的スキル3)を教える必要があると述べている。先行研究では、長濱ら4)が大学生と専門学校生を対象とした協同作業認識尺度を開発し、妥当性を証明している。看護教育では、看護技術教育に協同学習の方法論を取り入れることの有効性を明らかにした研究5)や、授業において学生自身が設定した目標に基づいてグループ活動を行い、目標達成効果を明らかにした研究6)などがある。しかし臨地実習において、協同学習を主眼としたグループ活動を行った研究は見当たらない。そこで、本稿では成人実習の期間に研究参加者で行ったカンファレンスにおいて、教員が社会的スキルの活用を促す介入を行いながらグループ活動を行い、コミュニケーション能力とメンバー間の関係性についての効果を明らかにすることを目的とした。2グループ活動の概要グループ活動の概要を資料1に示す。グループのメンバー構成は、研究に同意した成人実習グループのメンバーとした。活動の回数は、3週間の成人実習期間に10回前後で、1回のグループ活動の時間は30分前後であった。また、学生が実習で疲労していた時や、実習時間が延長した時などは実施しなかった。教員は実習時間に実習指導教員として関わった後、グループ活動にファシリテーターとして参加した。そこでは発言を控え、学生が主体的に発言し運営できるように、社会的スキルの活用を促した。―99―中部大学教育研究№12(2012)99-104保健看護学科成人看護学実習のグループ活動における協同的な学びの効果松田麗子・牧野典子

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