中部大学教育研究11
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4まとめ:他の授業との関連性今回の「社会人基礎力育成グランプリ中部地区予選大会」で筆者らが発表した授業実践は、番組を企画し制作するという内容であった。自分がやりたいテーマを考えて企画書を書き、取材し、番組構成を考え、撮影・編集をして、番組を作り上げるというプロセスは、一見、特殊な授業内容に見えるかもしれない。しかし、本実践は、近年注目されている「PBL:project/problembasedlearning、実験、実習、フィールドワークなどの参加型・能動型学習」としての「アクティブラーニング」(河合塾編、2011)のひとつと位置づけることができるであろう。ゼミで学生たちが課題を設定し、グループワークによって調査を実施したり、何かを作り上げたりする授業と本実践には、本質的な違いがないのである。学生たちに対し、日々のすべての授業に、主体的に、まじめに取り組むことが、自らの社会人基礎力を向上させ、就職活動にも、そして社会人となってからも役立ことを今後も伝えていきたい。最後に「社会人基礎力」そのものについての是非について述べたい。本田(2005)は、「ポスト近代社会」で人々に要請される能力を「ポスト近代型能力」と呼び、「生きる力」「多様性・新奇性」「意欲、創造性」「個別性・個性」「ネットワーク形成力、交渉力」をあげている。これらは、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」とも重なる部分が大きいと筆者は考える。本田自身は、「ポスト近代型能力」の必要性が声高に叫ばれる社会と、そこでの「能力のハイパー・メリトクラシー化」に危機感を感じている。しかし、現実に社会で「ポスト近代型能力」が必要とされている以上、その要請に応えるのも大学における教育としてのひとつのあり方ではないだろうか。「社会人基礎力」「ポスト近代型能力」の内容についての吟味も行いつつ、それらの育成手法の一つとしての本実践について、さらに改良を重ねていきたい。謝辞日頃、「映像制作D」の授業に対し、御助言をいただいている人文学部・齋藤宏保教授、メディア教育センター・村上和彦教授、鳴海留美子さんに心より感謝申し上げます。また、中部地区予選大会前日に、全学共通教育部事務室・古川祥子さんの発案で、大教室でのリハーサルを実施していただきました。お忙しい中、お集まりいただき、貴重なご指摘をいただいた広報出版室・田中寿美室長(当時)、広報部・鈴木清明課長、工学部・小林礼人准教授、全学共通教育部・松井恒雄教授、大竹尚道次長、古川祥子さんに心より感謝申し上げます。なお、本授業実践は中部大学平成23年度特別研究費(CP)の補助を受け、平成23年11月の「社会人基礎力育成グランプリ中部地区予選大会」でも、「準優秀賞」「優秀指導賞」を受賞しました。記して感謝の意を表します。注1)出場したのは、人文学部コミュニケーション学科2年(当時)都築譲二、伊藤綾香、山本達也の3人と筆者である。国公私立合わせ13大学が参加した中部地区予選大会において、チームは「準優秀賞」を受賞、教員は「優秀指導賞」を受賞した。2)本学が学生向けに発行している冊子『CHUBUUNIVERSITYCAMPUSLIFE』にも「社会人基礎力」について解説がなされている。3)筆者は2010年6月までNHKの報道番組ディレクターだった。NHKでは入局1年目のディレクターは、職場配属後すぐ自分のテーマで5分間の番組を作ることが求められる。筆者の授業もこのいわゆる「NHKメソッド」を踏襲し、学生たちが自分のテーマで番組を作ることを求めている。4)筆者は、授業「映像の世界」「映像制作A」受講中の1年生に対し、2011年4月の授業中にアンケート調査を実施した。105人が回答した。それによると、学生たちが新聞を読む時間は1日平均7分。さらに、67%の学生が1日に新聞を読む時間がゼロ、つまり全く新聞を読んでいなかった。5)大会での発表では、社会人基礎力の向上だけでなく、「映像コンテンツの制作を通して番組制作スキルとメディア・リテラシーを身につける」という本来の授業の目的についても説明した。参考文献河合塾編(2011)『アクティブラーニングでなぜ学生が成長するのか-経済系・工学系の全国大学調査からみえてきたこと』東信堂経済産業省(2010)『社会人基礎力育成の手引き-日本の将来を託す若者を育てるために』朝日新聞出版本田由紀(2005)『多元化する「能力」と日本社会-ハイパー・メリトクラシー化のなかで』NTT出版山登義明(2006)『ドキュメンタリーを作る-テレビ番組制作・授業と実践』京都大学学術出版会(准教授全学共通教育部統括調整部門)―85―「映像制作」授業を通した「社会人基礎力」の育成

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