中部大学教育研究11
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写真3企業の方への出演交渉(右2人が学生)「出演交渉」において、相手と自分たちのスケジュールを調整するという作業も、学生たちには初めての経験だった。お互いの都合をすりあわせ、妥協点を見つけていく作業について、学生は大会での発表の中で、「この経験から私は、状況を把握して次にどうしたらいいのか考える柔軟性が身についたと思います」と述べた。社会人基礎力12の構成要素のうち、「傾聴力」「柔軟性」「状況把握力」が「向上した」と学生たちは感じたようである。3.4「⑤撮影」「⑥編集」「⑦ポスプロ」「③構成」が固まり、「④出演交渉」で撮影の了承が得られると、いよいよ「⑤撮影」である。「撮影」は、基本的に「宿題」とした。他の授業への出席に影響がないよう、自分たちの授業がない日や土日に実施するように指導した。この段階で、一番身についたこととして、学生たちは大会での発表で次のように述べた。学生:この授業を通して私は、「自分一人ではできないこともチームでならできる」ということを実感しました。インタビュー撮影を始めたら、相手がカメラを意識して固くなり、笑顔が消えてしまいました。「どうしよう。このままじゃ番組にならない」と思いました。助けを求めて、思わずチームのみんなの顔を見てしまいました。そうしたらチームメイトの一人が、「インタビューとしてではなく、普通の雑談をしているように撮影してみようよ」とアイディアを出してくれました。その通りにしたら、相手も気軽に話してくれるようになり、インタビューは大成功でした。それまでの作業では、チームのみんなともめてばかりいました。でも、私は「やっぱり一人では番組制作はできない。チームメイトを信頼することが大事なのだ」と思いました。会社も組織で動いていると思います。この授業でのチームは10人足らずで、会社に比べると小さい組織です。それでもチームでの作業を通して、「仲間と目標に向けて協力する力」が身についたと思います。2010年12月に開催された大会では「⑥編集」までの発表であった。実際の授業では、「⑦ポスプロ」まで行い、2011年1月末の最終回の授業で、完成した番組7本を全員で視聴し、批評し合った。3.5学生たちの自己評価大会では、学生たちの自己評価アンケートについても報告した。「映像制作D」15回の授業のうち、8回目の授業中に実施したものである(欠席者2人を除く37人が回答)。それによると、「社会人基礎力」の3つの柱についてそれぞれ1回目と8回目の授業時点とを比べ、「とても上がった」「やや上がった」「変わらない」「やや下がった」「とても下がった」の5段階で聞いたところ、「前に踏み出す力」は75.7%、「考え抜く力」は81.1%、「チームで働く力」は78.3%が、「とても上がった」もしくは「上がった」と答えた。15回の授業の途中段階での自己評価ではあるが、大半の学生が「社会人基礎力が向上した」と認識していた。大会では、このアンケート結果について発表した上で、学生たちは次のように述べた。学生:「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの社会人基礎力はどれも大切です。しかし、私たちは「映像制作D」の授業を通して、「チームで働く力」が一番大切だと考えるようになりました。「チームで働く力」がないと、一人一人が頑張っても組織としての成果が向上しません。そしてこの「チームで働く力」の基礎となるのが「コミュニケーション能力」です。授業を通して、このことを学びました5)。3.6審査員からの評価筆者らのチームの発表に対し、審査員たちが質疑応答で最も注目したのは「テーマを学生たちが自ら設定し、主体的に作業を進めた」という点であった。ある審査員からは中部大学の発表に対し、「今、多くの会社で、指示を受けてしか動けない『指示待ち社員』が増えている。上司から指示される前に自分のやりたい企画を提出したり、現状の改善点を提出したりするような『自ら考えて動くことのできる人材』が求められている。この授業は、そうした人材の育成に効果があると考えられる」と評価していただいた。―84―近藤尚

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