中部大学教育研究11
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①リサーチ(事前の情報収集)、②企画(どこの誰を、何を、どのような観点から描くのか、企画書としてまとめる)、③構成作成(たくさん集めた情報のうち、何を取り入れ、何を捨てるのか、どのようなシーンをどのような順番で並べるのか、番組全体の見取り図を作成する)、④出演交渉(話だけなら聞かせてくれても、話の内容を撮影し、公表するとなると断られることが多い)、⑤撮影、⑥編集(撮影したビデオテープの映像を取捨選択し、1本のビデオにまとめる)、⑦ポスプロ(ナレーション、テロップ、音楽を入れる)このようなプロセスで番組を制作する授業は、筆者の知る限りこれまで中部大学では人文学部で川田武教授、齋藤宏保教授らが行ってきた。また、同様の授業は、NHKで制作に携わってきた山登(2008)により京都大学でも行われていた3)。「映像制作D」ではこの7つのステップにそって、15回の授業を行った。その中で、学生たちは次々に壁にぶつかった。「社会人基礎力育成グランプリ」では、学生たちが、どのような壁にぶつかり、それをどう乗り越えて「社会人基礎力」を身につけたかを中心に発表した。3.2「①リサーチ」と「②企画」「映像制作D」の授業中に大会への参加者を募集したところ、3人が希望した。この3人と筆者は、放課後に大会発表の準備を行った。大会では、まず教員が3分間概略を説明したあと、学生がさらに詳細に12分間説明する。その後、4分間審査委員からの質疑が行われる。昨年度、中部地区予選大会の審査委員はコンサルティング会社の役員、電力会社の人事課長、機械メーカーの人事部マネージャーの3人であった。以下、大会での学生たちの発表の一部を紹介しながら、授業全体についても補足説明を行っていく。学生:「映像制作D」では、第1回目の授業で先生から、「この授業ではドキュメンタリー番組を作ります。テーマは何でもありです。自分でネタを探して下さい」と言われました。高校までの私たちは、いつも先生から課題やテーマが与えられてきました。しかし、今回のように、何もないところから考えるのは初めてで、とまどいと不安でいっぱいでした。「自分たちでテーマを決めること」が学生たちの最初の壁であった。高校までの教育で、課題やテーマが与えられ、その解答を見つける学習には学生たちは慣れていた。しかし、大学では、そして社会でも、自分で課題・テーマを設定し、自分で解決していくことが求められる。この時点で学生たちはまだ、「課題・テーマを自ら設定すること」には慣れていなかったのだ。テーマを考えるにあたって、学生たちには、基盤となる情報が乏しかった。とくに学生たちは日頃、ほとんど新聞を読んでいなかった4)。このため、2回目の授業では新聞を人数分購入して配布した。どこにどのような記事が書いてあるのか、どのような記事の、どこに着目すればドキュメンタリー番組になりうるのかを解説した。この結果、大会の発表で、学生は「テーマを探すやり方を教えてもらって、何とか自分のテーマを見つけることができました。さらに、この授業をきっかけに毎日、新聞を読むようになりました」と語った。その後の授業で、学生たちは、とまどいながらも、それぞれテーマを見つけ、新聞やインターネットで情報を探し、4回目の授業までに39人がそれぞれ自分の「企画書」を完成させた。その「企画書」をもとに、4回目と5回目の授業では、39人がそれぞれ3分ずつ自分の企画書を説明する写真1の「プレゼンテーション大会」を行った。学生:プレゼンテーション大会では、自分の考えをわかりやすく伝えること、一度にクラス全員39人に伝える難しさを感じました。先生のアドバイスをもとに、まず、自分が内容をしっかり把握すること、聞いている人たちの目を見て、アイコンタクトをしながら話すこと、自信を持って大きな声で話すことなどの工夫をしました。写真1プレゼンテーション大会このプレゼンテーション大会では、学生たちに「どの番組を見たいか」の投票を実施した。その結果、多くの票を集めた上位7つの企画について、今後、実際に制作を進めていくことにした。例えば、事前に大手居酒屋チェーンに交渉をし、「新メニュー開発の社内試食会ですが、特別に皆さんに公開しましょう」と社長からの取材許可を取り付けた「世界の山ちゃん新メニュー開発コンテスト密着取材」や、大学生や専門学校生が路上で開くライブコン―82―近藤尚

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