中部大学教育研究11
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(F(1,40)=22.30,p<.001)、「状況対応得点」(F(1,40)=21.81,p<.001)、「EQS合計点」(F(1,40)=32.96,p<.001)において有意差が認められ、フレッシュマンキャンプを経験することによってEQSのすべての下位領域と合計得点において向上することが明らかになった。また、「自己対応得点」「対人対応得点」「状況対応得点」「EQS合計点」すべてにおいて交互作用と性別要因による主効果は認められなかった。よって、すべての従属変数において、フレッシュマンキャンプを経験することによって男女に違いなく、情動知能が向上したことが明らかになった(図4)。キャンプ体験による情動知能の向上は、黒澤(2006)も指摘する通り、ゴールマン(1996)が挙げるサロヴェイが分類するEQに関する5つの領域である、「自分自身の情動を知る」、「感情を制御する」、「自分を動機付ける」、「他人の感情を認識する」、「人間関係をうまく処理する」が、野外活動自体の目的にも当てはまる。野外活動を通じて自分自身の情動を理解しコントロールする場面や、仲間との共同作業や時間をともにすることによって他者の情動の認識や状況に応じた気持ちのコントロールを体験し、情動知能への意識が向上したものと考えられる。本研究において、フレッシュマンキャンプが新入生の情動知能に与える影響が明らかにされた。情動知能は「こころの知能指数」と解釈され、社会に出てから最も必要となるものは、知識量やいわゆる伝統的な狭義の知能の高さではなく、感情をうまく管理し利用できる能力、すなわちEQ(情動知能)の高さであると指摘されている(Goleman,1995)。今後長期間にわたる学生生活を適応して送っていけるかどうかの試金石ともいえる1年次の夏休み期間に、フレッシュマンキャンプによって情動知能が向上したことは、今後の大学生活を円滑に送るうえでの大きな基盤となると考えられ、その教育的効果と意義は極めて高いと言えよう。4まとめ本研究で見いだされた知見は以下のようにまとめる事が出来る。情動知能におけるフレッシュマンキャンプ前後の比較から、自己、対人、状況対応の全ての領域において向上する結果が得られた。フレッシュマンキャンプにおける様々な活動を通して、「自己の心の働きについて知り、行動を支え、効果的な行動をとる能力」の向上が認められたと言える。また、仲間との信頼関係を必要とする班行動やゲーム、登山というストレスを伴う体験を無事克服した成功体験とその共有により、「共感をベースに、他者との人間関係を結び維持することのできる能力」である対人対応能力も向上したと考えられる。そして、全プログラムを通して、「自己を取り巻く、あるいは自己と他者を含む集団を取り巻く状況の変化に耐える力、また自己対応領域と対人対応領域の各種能力や技量を状況に応じて適切に使い分ける統制力」である状況対応能力も向上したと考える。大学という社会への接続部において、その準備段階の初期にフレッシュマンキャンプを経験する事は、有効な教育手段である。さらに、本フレッシュマンキャンプが中部大学において50回の歴史を刻むことの意味を情動知能の観点から考察することができた。ここ数年、少子化の流れの中で「面倒見のいい大学」を志向する風潮が強まるとともに、行政側からも「大学における学生生活の充実方策について」(文部省高等教育局,2000)が提示された。これは、正課教育を補完するものとして考えられてきた正課外教育の意義を捉え直し、その在り方について積極的に見直す必要があるとの提言であるが、本学では既に50年にわたって、社会の中で生き抜くための基本的な能力の涵養に努めていくための活動が行われてきていた。今回の結果から、伝統的行事の長期開催の背景には、教育的効果が存在することが経験値として認知されていることを示しているとも考えられた。今後、より効果的だと考えられるプログラムの開発を含め、さらなる展開が求められる。謝辞本調査を実施するにあたり、ご協力頂きました第50回フレッシュマンキャンプに参加した新入生の皆様、アンケート実施にあたり、調査をコーディネートして下さいました本学学生課の酒向麻由様、細川貴史様、垣立昌寛課長様に深謝申し上げます。なお、この調査の一部は、平成21年度「大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラム」採択の「『持続学のすすめ』による実践型人材の育成」事業の一環として計画し、調査したものである。―78―伊藤守弘・西垣景太・佐藤枝里・栗濱忠司・山田公夫図4性別による実習前後のEQS下位領域得点404455055560665704EQS

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