中部大学教育研究11
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1はじめにフレッシュマンキャンプは新穂高の大自然の中で寝食を共にし、規律ある団体生活を身につけるとともに、各種の企画を通して参加者との交流を深めることにより、充実した学生生活を送る礎を築く事を目的とした行事である。本キャンプは新入生を対象としており、昭和37年中部工業短期大学当時から毎年実施され、現在は本学の施設である新穂高山荘を拠点にして開催されている。本年、記念すべき50回を迎え、中部大学の学生行事の中では最も歴史あるものである。メンバーは新入生の中から希望者を募り、これに上級生12名をリーダーとして加え、さらにカウンセラーとして教職員が参加し編成されている。運営面は上級生の学生リーダーが全てを担い、彼らの努力無くしてフレッシュマンキャンプは成り立たない。3泊4日の寝食を共にした共同生活のスケジュールを通じ、相互のふれあいを密にして、メンバーシップやリーダーシップ、リーダー候補を真のリーダーにするためのフォロワーシップの養成が行われる。フレッシュマンキャンプは新入生が主役であるが、同時に上級生の学生リーダーが育つ重要な行事でもある。多くの企画が準備されているが、主なものに西穂高岳登山、穂高鍋とキャンプファイヤーがある。漆黒の夜空に輝く星と、キャンプファイヤーの炎は神秘的であり、新入生にとって忘れられない大切な思い出になる。近年、人間関係の希薄化が生むさまざまな弊害が危惧されるとともに、積極的なコミュニケーションを図る能力の必要性が指摘されてきている。伝統的な知能研究に情動の制御という社会的適応との関連から説明したものとして、Salovey&Mayer(1990)が「情動情報処理の一種であって、自己と他者の情動の正確な評価、情動の適切な表現、および人生の質を高めるような形での適応性の情動制御を含むもの」と定義した情動知能(EI:EmotionalIntelligence)という概念がある。一方、ゴールマン(1996)は、情動知能を「自分自身を動機づけ、挫折しても我慢強く頑張れる能力、衝動をコントロールし快楽を我慢できる能力、自分の気分をうまく整え情動の乱れに思考力を阻害されない能力、他人に共感でき希望を維持できる能力である」としている。そして、従来の知能(IQ)と対比させるためのキャッチコピーとして「EQ」という言葉を国内にも広め、情動知能の特徴の1つとして、先天的な要素が少なく、教育や学習を通して改善・習得されるものだとしている。卜部(2008)、川内ら(2010)は、徳山大学で実施しているキャリア教育としてのEQ教育について研究、報告している。キャリア教育として学生各自が大学生活の早期に自己を確立し、自立した社会人に向かって努力しようという自覚を啓発する教育として、EQの育成を柱とする教育プログラムを構築している。目指す能力として、「EQトレーニングⅠ」ではセルフコントロールとコミュニケーション、「EQトレーニングⅡ」ではチームビルディングとリーダーシップ、「EQトレーニングⅢ」ではソーシャリティーを挙げており、高等教育における情動知能向上の必要性を指摘している。また、岡田(2007)は、就職活動において自己洞察や自己コントロール、対人的なコミュニケーション能力が必要であると考え情動知能と就職活動を行う学生の内定状況について検討している。その結果、予備的な調査としながらも、大学4年生の就職状況と内山ら(2001)が作成した情動知能測定尺度であるEQS(EmotionalIntelligenceScale)の得点を評価し、二社以上の内定を得た学生と未内定の学生の間には有意な差があることを明らかにしている。さらに、野外活動の効果と情動知能の向上という側面から、黒澤(2006)は大学生の新入生向けオリエンテーションとして行っている4泊5日のキャンプによる情動知能の影響をEQSによって検討している。その結果、自己対応領域、対人対応領域、状況対応領域のすべてにおいて実習前よりも実習後の得点が有意に高くなっていることを明らかにし、野外活動による情動知能の向上を指摘している。高校生から大学生への移行期とされる1年生の夏休みに開催されるフレッシュマンキャンプは、どのような教育的効果をもつものであろうか。今回の研究では、大学生活を有効に過ごすために必要であると考えられる情動知能の観点から、フレッシュマンキャンプの教育的効果を解析した。―75―中部大学教育研究№11(2011)75-79フレッシュマンキャンプの効果-情動知能の観点から-伊藤守弘・西垣景太・佐藤枝里・栗濱忠司・山田公夫

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