中部大学教育研究11
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1はじめに臨床工学技士は、1985年に誕生した国家資格の一つである。臨床工学技士資格を取得するためには、臨床工学技士養成校で受験資格を取得し、国家資格試験に合格しなければならない。現在の養成校の数は、専門学校34校、大学28校、大学院6校で、臨床工学技士資格取得者は27,000人余りを数えるまでになった。臨床工学技士は高度化する医療を支える医療専門職の一員として、無くてはならない職種になりつつあり、益々、学校教育の重要性が高まってきた。高度先進医療の担い手であり専門職である臨床工学技士を、社会に貢献し得る人材として育成するにはどうすればよいか。そのためには、医療専門職教育の内容や専門職として求められる基本姿勢・態度すなわち資質を入職前に身につけさせる教育・訓練(プレサービス)の充実が不可欠である。そこで、医療専門職教育の内容やプレサービスの充実を図る目的で、卒後1年を経過した卒業生に聞き取り調査による質的研究を行った。質的研究は、現在では保健学領域全般でその必要性が言われるようになってきている。本研究は、アンケート調査に代表される量的研究とは違い、個々の事例から生の言葉や行動をデータ化し研究する質的研究である。2目的臨床工学技士を養成するに当たり、問題探索型の質的研究を行い、学生時代の教育における問題点を探求する。3対象2008年3月に卒業し臨床で1年間以上継続して働いた、臨床工学技士5名を対象とした。4方法個別に面接を行い、その内容を録音しそれを文章化する。面接は、半構造化形式で行い、聞き手と対象者の座る位置などを考慮し、聞き手の誘導にならないように注意して実施した。面接時間は、45~60分程度とし、面接内容は、①職場の状況、②職場での経過と感想、③学生時代を振り返って臨床実習のことを、④今から思えば講義、実習で必要だと思うことの4点とした。質的な社会調査の手法には、グランデッドセオリー・アプローチやデータマイニング法、KJ法などあるが、今研究は、グランデッドセオリー・アプローチ1)を用いて分析を行った。グランデッドセオリーは、インタビューや観察などによって得られた具体的なデータをもとに、そのデータを圧縮し理論を発見すること、あるいは既存理論の精緻化を目指す方法である。尚、被験者へは研究内容の説明を行い、面接にて録音をすることや面接で得られた情報の取り扱いは、氏名等を明らかにせず、個人の秘密が十分に守られることを条件に、本評価の成果を医学雑誌や学会発表あるいは医学教育の目的で使用する承諾を得た。本研究は中部大学生命健康科学部倫理委員会の承認を得て実施した。図1Graundedtheoryの手順5手順研究者により様々な方法2)があるが、私たちが行ったグランデッドセオリー・アプローチの具体的な手順を図1に示す。まず、5人をインタビュー形式のデータ収集面接を行い、面接内容を文字にして文章化する。その文章化したものを、個人的な思い入れなどは排除し、客観的に文章を細かく分断し断片化していく。次に、断片化した内容を適切に表現する簡潔なラベルを作りコード化する。さらに、同じようなコード(ラベル)同士をまとめ、上位概念となるカテゴリーを作り名前をつける。そして、カテゴリーとサブカテゴリーを関連づけて現象を表現する。表1は、実際の断片化、コード化したものである。「会話」の欄は、面接内容を文章化にしたものを1文ずつ「断片化」して番号を付けている。すべての文章に番号が付けられたのち、2名の担当者が「断片化」した文章の内容を客観的に表す「ラベル」を作成し、―71―中部大学教育研究№11(2011)71-74新卒医療専門職から見た学校教育の問題-臨床工学技士教育の観点から-福田信吾・武田明・米澤久幸・宮本靖義・矢澤浩成・藤部百代

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