中部大学教育研究11
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用能力に長けた彼ら自身の母語によって行われた授業は日本語という「媒介語」が存在せず、容易に「分かったような気になる」授業でもあった。彼らが日本での普段の授業で難渋していたのは中国語と日本語の結びつきであった。そのために、普段の授業では論説的な中国語の文章を読み、文どうしの論理的な関係に留意しつつ、各文の文法構造を正確に見抜いて、その内容にふさわしい体裁の日本語へと翻訳したりする訓練を繰り返していたのだった。それこそが、将来は日本語と中国語の世界を行き来しつつ仕事を行い、生活をする彼らにとって必要な能力なのである。また、今回は上級クラスの使用教材についての検討であったが、このようなカリキュラムの一本化は、初級・入門クラスにおいてこそその効果が顕著なものになるとも思われる。それについては今後の検討課題としたい。5教科書で学んだ中国語を日常会話へ語学授業の新発想―「小品」で覚える中国語会話(宗)2009年4月、国際関係学部に中国語中国関係学科が設立された。その年の秋学期から私は中国語ⅠA、ⅠBやビジネス中国語など主に一年生が対象となる中国語の授業を担当することになった。新入生では中国語を初めて学ぶものが殆どで、教科書に沿って基礎のピンインから勉強をしている。週に四日間毎日語学の授業を行い、正直語学の楽しさを感じる学生もいるものの、語学の単調さを感じる学生も少なくはない。教科書ばかりを勉強するのではなく、どのようにすれば楽しく、かつ活用できるような語学の授業ができるのかについて、報告者は常に考えていた。一年生が現在使用している教科書『話す中国語北京篇1・2』では主に日常会話を中心にしている内容が多く、普通生活のなかでもよく使われる単語や語彙も少なくはない。しかし授業中にできていても、授業後に会話をする時に、教科書で出てきた語彙や表現を交えて話しても、聞き取れない学生が多い。将来通訳などとして社会に出てゆくであろう本学科の学生にとっては、教科書に頼りがちな学習姿勢は大きな問題である。中国語を使う際に教科書の束縛から少しでも離れることができるようにと、昨年から以下の工夫を試みているのでここで紹介したい。一つめは、授業中、テキストの会話例をその場で学生たちに暗記してもらい、瞬間的な記憶力を高めるよう勧めている。繰り返しの朗読後に5分~10分の時間を与え、集中力を高めたあと暗記させ、その後一人一人に大きな声で発表させている。こうすれば、学生は教科書に依存することもなく、集中力や語学的な記憶力を高めることもできるはずである。もちろん、暗記した後でも繰り返しの復習は欠かせない。二つめは、作文練習時に、教科書で新しく習った文法事項を使用して、既習の語彙や表現を織り交ぜながら、自由に文を作ってもらっている。少人数授業だからこそできる方法であり、クラスの雰囲気を楽しいものにする効果もある。この作文練習は、流暢に話したりや臨機応変な対応を身につけるのに大きな効果がある。以上の二つの方法にはそれぞれの効果も見られたものの、ただ暗記しているだけでは口から出てくる言葉も自分のものではなく、クラスの雰囲気も生き生きとしたものにすることはできなかった。そこで次に採用したのが、前述の方法よりレベルの高い、「簡単な小品を演じる」という方法であった。「小品」(xiaopn)とは中国語で短い演劇という意味で、中国では良く見られる芸術表現の一つである。昨年の秋学期、ビジネス中国語の授業中に一度実施した事があり、その際は学生から良い反響があった。具体的な実施方法は以下のとおりである。この方法は日本での中国語教育の現場ではそれほど使われていないのではないだろうか。中国での留学生向けの中国語教育ではしばしば使われている方法のようだ。中国では、中国語の学習経験のある外国人タレントが数多く活躍しているが、彼らの中国語は流暢で表現力は豊かである。短い演劇「小品」を通じて言葉を覚えるという方法によって、既習の単語の復習も兼ねつつ、借り物ではない自分の言葉として中国語を話すことができるようになれば、自らの中国語力のレベルアップを実感できるようになるのではなかろうか。特に「ビジネス中国語」などの実用的な中国語運用能力を鍛える授業の中で定期的に用いることが勧められよう。将来、大学祭などの学校行事の際に、学生たちによる中国語劇などができればなお一層よい。中国語が堪能な人材を養成するという共通の目標を持って、引き続き学生たちが楽しく参加できるような授業作りをしたいと思っている。6おわりに(和田知久)「中国語を教える」という行為には、「なにを教えるか」と、「どうやって教えるか」という2つの側面―68―和田知久・于小薇・宗・伊藤正晃

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