中部大学教育研究11
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4.3上級クラス「読解課」で使用されたテキストについて上級クラスの読解課で使用されたテキストは、馬樹徳主編『現代漢語高級教程上』(北京語言大学出版社、2002年8月)であった。本テキストの李揚による「序」によると、本書は北京語言大学の対外漢語本科教育のために作成されたものであるという。北京語言大学は、同大学ウェブページ「学校概況」などによると、1962年に設立された中国で唯一の対外中国語教育と留学生向けの中国語、中華文化教育に取り組んでいる大学であり、創立以来の約50年間に12万人の外国人留学生を輩出している。対外漢語本科教育とは、留学生を対象とした「本科」(=大学の学部)教育のことで、北京語言大学では、「中国語専攻(漢語言専業)」と「中国言語文化専攻(中国語言文化専業)」に分かれている。ともに、「すぐれた中国語運用能力を持ち、中国語の確かな基礎知識や、一定の専門理論や中国にまつわる基本的な人文知識を備えた、中国の国情や文化的な背景を熟知した実用的なタイプの中国語の人材を養成する」ことを教育の総目標としている。その目標を達成するために、中国語をゼロから始める学生が卒業までの4年間で、3000時間の教育課程を経なければならないとしている。その中心をなすのは、もちろん中国語の授業であるが、北京語言大学では、「中国語言語能力」「中国語言語知識」「中国人文知識」の各授業に分かれている。さらに、「中国語言語能力」の授業では、ヒアリングやライティング、会話、読解といったような「各技能別科目」と、言語運用の多様性と総合性に鑑み、各技能を総合的にトレーニングする「総合科目」に分けられている。本テキストは、「中国語言語能力」の三年次における総合科目「上級中国語」で使用される教材として想定されている。本テキストのほかに、北京語言大学対外漢語本科教育のカリキュラムに密着した50部以上のテキストが系統的に出版されている。また、『中高級対外漢語教学等級大綱』(1995)、『初級対外漢語教学等級大綱』(1997)などといった、初級から上級にわたる対外中国語教育における発音、語彙、文法や検定試験についての枠組みや言語運用能力測定のための基準を積極的に採用、導入している点も、本テキストの特徴として挙げることができる。4.4本テキストの構成について本テキストは「上」「下」巻に分かれており、それぞれ10課で構成されている。日本で出版されているテキストが90分の授業数回で1課を学び終えるような分量であるのに対し、本テキストは中国で出版されている他のテキストと同様、1課分の紙幅・分量ともに非常に多い。各課は、「課文」、「思考問題」、「新出単語一覧」、「単語の用例と解釈」、「類義語の弁別」、「語句解説」、「文法解説」、「練習問題」の8つの部分に分かれている。課文は、3000字から8000字程度の文章で、もちろんピンイン(発音の中国式ローマ字表記)は付されていない。主に1980年代から1990年代に発表されたものが中心で、題材、体裁ともに多様多岐にわたっている。書き手も、汪曾祺、梁曉聲、葉聖陶、談歌など、文化大革命収束後のいわゆる「新時期」文学の担い手が多く、創作の自由が比較的認められるようになって以降の作品であるため、かつての教条主義的な社会主義文学の時代の作品と異なり、世界の各地から来て中国で学ぶ留学生たちにとっても、共感しながら読み進められるようなテーマのものが多いように見受けられる。思考問題は、課文を踏まえた5問程度の問いで、内容の理解度を確認するものである。新出単語一覧では、漢字とピンインのみで、語釈は示されていない。また、各課に60から80語の新出単語に加えて、“水”“冷眼旁”といったような慣用的に用いられる四字句が10語前後掲載されているのは、このテキストが上級学習者向けのものであることからも適切である。単語の用例と解釈では、主に新出単語として出てくる語について各課に5語程度、複数の例文を示しながら、注意すべき用法について注釈が加えられている。類義語の弁別では、各課5組程度の語について、語義に置かれる重点や範囲などの「意味」、貶義語か褒義語かや口語的か文語的かといった「ニュアンス」、品詞や修飾時の結びつきなどの「用法」といった3方面から、例文を示しながらその異同に分析を加えている。語句解説では、各課に出現する表現のなかで、「諺語」(ことわざ)や「歇後語」(一種のしゃれ言葉)などといった中国語に特徴的に用いられる成語や、中国語の「方言」や「敬語」、「新語」といった事柄について解説が加えられている。文法解説では、方向補語や可能補語といった補語表現や主に文章語で用いられる助動詞表現についての解説に加え、複文における主節と従属節の意味的な関係について詳細な分析と解説が加えられている点が、初級・中級レベルの文法解説と異なっている。練習問題は、以上の解釈・解説の定着度を測るために、造語や短文の作文、穴埋めや短文の並べ替えから、課文に関連する2000字程度の文章の読解問題まで出題形式の面で多様であるうえに、各課が30ページほどで構成されている中、練習問題がその3分の1程度を占―66―和田知久・于小薇・宗・伊藤正晃

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