中部大学教育研究11
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はっきり発音することが最終目標ではなく、ネイティヴが話す自然発話に近づくことが肝要である。単母音の音価を正確に把握させ、音の違いを聞き分けさせることに発音における第一の目標を置き、その目標を達成できた段階で、音素から音節、語彙、文といったレベルに引き上げて、さらに中国語のもつ「メロディー」を習得できるような指導が必要である。研修で矯正した発音を保持できるようにすること、そして中国語の「メロディー」を体得できるようにすることが、本学科の教員に課せられた責務であろう。中国語を使用する機会が少ない環境から、如何に機会を増やしていくかが今後の課題である。4北京夏期研修上級クラスにおける使用教材についての考察-「読解課」使用教材を中心に-(和田知久)4.1はじめに中国語中国関係学科の北京夏期研修は、2011年8月7日から9月3日にかけて28日間にわたり協定校である外交学院(北京市)において実施された。本研修は、対外中国語教育を専門とする現地教員による中国語の授業を受けることで中国語運用能力の向上をはかるとともに、伝統的な演芸を鑑賞したり、現地の企業・工場を訪問したり、北京市にある世界文化遺産や歴史のある街なみを見学したりするといった実地体験を通じて、中国の文化や社会により深く興味を抱き、今後の学習や研究に益をもたらすことを目的としている。本年度は31名の1年生が、外交学院キャンパス内の国際交流中心に付設の留学生宿舎に滞在し研修プログラムに参加した。北京研修プログラム自体については、すでに『中部大学教育研究』に、2009年に行われた研修についての報告がある(澁谷ほか、2009)ことと、本年度のものとは大枠についてほとんど相違がないため詳細には触れない。本項では、本年度の研修の際、上級クラス読解課で使用された教材について考察を加えたい。4.2上級クラスについて中国語中国関係学科の北京夏期研修では、プログラム二日目に筆記試験と口頭試験を行い、その結果によって能力別のクラスを編成している。今年度は「初級クラス」2クラスと「上級クラス」1クラスの計3クラスに分かれることになった。初級クラスについては、クラス間のレベルの上下を設けず、平準化をはかった編成となったが、一方、上級クラスには、中国で生まれて初等ないしは中等教育まで受けた以下の3名の学生で編成されることとなった。学生Aは、中国で中学2年の途中まで過ごしたあと、家庭の事情で来日した。学生Bは、中国生まれの非漢民族で、少数民族のための学校で中学まで修了している。少数民族のための学校では、基本的には民族語と漢語(いわゆる中国語)の使用比率は半々であるとされている。学生Cは、中国生まれで小学校卒業までを中国で過ごしたあと、家庭の事情で来日した。3名とも「話す」「聞く」といった中国語の日常的な運用能力については問題がないものの、それぞれが生活した地域の方言の影響を受けている。また「読む」「書く」といった能力については、それぞれ程度の差こそあれ、「話す」「聞く」ほどレベルは高くはない。特に学生Bについては、漢字自体についての理解が弱いことを自ら認めている。また、日本語の運用能力についても、中国語同様、「読む」「書く」と「話す」「聞く」の能力にバランスを欠いている。ちなみに本学での春学期の普段の授業では、学生Aと学生Cで特別クラスを編成して時事文の講読と翻訳や、中国のテレビ番組をもとにして編集されたビデオ教材の聞き取りなどを行っている。学生Bは漢字や文法について一から学びたいという本人の希望もあり、ゼロスタートの学生たちと同じクラスを受講していた。北京夏期研修における中国語の授業は、月曜日から金曜日の午前中に4コマあり、毎日2科目の授業が行われる。1コマは45分間で、1科目は2コマ連続で行われる。上級クラスの時間割は以下の通りである。各授業については、「会話」「リスニング」は文字通りの内容であるが、「読解」課は「中国語の総合科目で中国語の骨組みとなる授業である」と今回参加の学生に配布された「研修のしおり」には記されている。以下に、読解課で使用されたテキストについて検討と分析を加えてみたい。使用された教材には選択された理由があるはずである。教材に対する検討と分析によって浮かび上がってくる本テキストが選択された理由は、すなわち外交学院の現地教員が上級クラスに設定した教育目標と密接に関連するものであり、それについて考察を加えることで、北京夏期研修と日本における平常授業との連携の方途を探るよすがとしたい。―65―中国語中国関係学科における北京夏期研修と通常授業との連携に向けた取り組み

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