中部大学教育研究11
71/134

ど舌の最高点が口の奥(喉寄り)にあり、大きいほど口の前(歯寄り)に最高点がある。性別の違いでは、女性は周波数が高いため、男性に比べて範囲が広いが、範囲の広さは口の大きさと無関係である。本稿における発音矯正で重要な単母音は、日本語にない単母音が正しく発音できるかどうかである。ここでは/u/、/e/、/u/の3つの単母音を取り上げる。第一に、/u/はIPAでは[y]と表記され、[i]が非円唇であるのに対し、舌位はそのままで、[i]を円唇にしたものが[y]である。円唇は唇を丸くすぼめるため、舌位が非円唇に比べ奥寄りに移動する。このことから、非円唇[i]のF1の数値は変わらず、F2の数値が小さくなるため、円唇[y]は平行にスライドした位置に存在する。第二に、/e/はIPAでは[]と表記され、円唇[o]と同じ舌位の非円唇音である。/i/と/u/の関係と同様に、/o/のF1と同じ数値で、F2がそれより大きくなったものがe[]である。第三に、/u/[u]は日本語の「ウ」とは異なる。日本語の「ウ」は[w]と表記され、円唇[u]の非円唇音である。発音矯正では、日本語の「ウ」より唇を丸めて突き出すよう指導するが、やはり矯正しにくい発音である。以上の3つの単母音について、学生の実態を見ていく。3.2.2学生の発音分析図3および図4はどちらも同じ男子学生のものである。図3は研修前、図4は研修後である。図3では/u/が/e/に近い位置にあり、これは日本語の「ウ」に近い発音をしていることがわかる。図4では、/u/のF2が小さくなっている。円唇/非円唇の別はこのグラフで見分けることはできないが、舌位が奥寄りになっていることがわかる。この学生は/u/の発音が矯正されていることがわかる。図5および図6は別の男子学生のグラフである。図5は研修前、図6は研修後である。この学生の場合は/u/が矯正されている。図5では、単音ではなく、日本語の「ユイ」のように2つの音を渡っていた。他の学生では「イユ」と渡る事例も見られた。図6では/u/は正しい位置になっており、発音は正しくなったことがわかる。3.3まとめ上述のように、矯正が見られた例がある一方で、発音の範囲が研修前に比べ狭くなる傾向も見られた。日本でおこなわれていた発音指導では、中国語の発音を明確化するため、教員は普段の発音より明瞭に発音し、学生には教員と同じように発音させる。このことから、研修前の発音は全体的にはっきりと発音されている。研修後は、日本にいるときより中国語を話す機会が多くなり、語彙を繰り返し使用することによって、中国語の発音が習慣化された。その結果、研修後の発音は全体的に普段の会話に近い状態で発音されていると考えられる。―64―和田知久・于小薇・宗・伊藤正晃図5図6図3図4

元のページ  ../index.html#71

このブックを見る