中部大学教育研究11
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内容には重複する部分が相当ある。そのため、短期間の研修に適した、内容の統一した教科書作りを視野に入れることが今後の課題である。3北京語学研修における発音矯正後の発音の変化-実験音声学的分析による変化の実態-(伊藤正晃)3.1発音の指導方法3.1.1本学における発音指導中国語中国関係学科の中国語の授業は週4コマあり、曜日によって先生が交代するオムニバス形式を採っており、1学期に1冊のテキストを指導することが決められており、そのため授業1回の進度は予め厳密に組まれている。1回の授業で指導できる範囲が限られているため、発音を指導する際はとくに個人的に時間をかけて指導することが実質的に困難である。そのような状況のもと、学生が習得しやすいように指導をしているが、フィードバックまでには至っていない。学生が積極的に教員の研究室に来て発音矯正を受ける、または教員が学生を呼んで発音の矯正を受けさせるようなことが実施されておらず、学生が1回の講義で発音の全てを正しく習得するには難しい状況である。現代中国語では、子音と母音の区別ではなく、「声母」と「韻母」に分けられる。声母は子音に相当し、韻母は母音および韻尾(-n,-ng)が含まれる。また、中国語の特徴である「声調」をあわせて3つの要素を8回の授業で指導しなくてはならない。学生の習得の如何にかかわらず、次の項目に進んでいるのが現状である。発音の項目を終えると、すぐさま会話編に突入し、語彙および文法に重点が置かれることになる。3.1.2北京夏期研修における発音指導約半年の語学の授業を終え、基礎の文法を身につけた状態で4週間の北京夏期研修のカリキュラムを受ける。北京で指導を担当する教員は日本語を話せないため、授業はすべて中国語でおこなわれる。内容は基礎からおこなわれ、本学で学習した発音および文法項目を再度学習する。文法の項目に関しては、日本で学習した内容を確認するという姿勢を取りつつ、中国語の説明によって理解するという、新たな方法で文法を理解していく。担当教員は日本語が理解できないため、学生は自らの考えを中国語で伝えなくてはならず、「分からなければ日本語で」という回避ができない状況に置かれている。このような状況のもと、まず発音の矯正から指導される。北京での教員の指導は学生ひとりひとりを確認し、正しく発音できない学生には時間をかけて何度も発音させて矯正している。学生の中には矯正に多くの時間がかかり、授業の進行を一時中断する場面もあった。語彙レベルによる発音の矯正が終わると、会話、読解、文法の項目を学ぶのだが、その際にも発声を要求されるため、自然な会話に近づくよう、さらに文レベルによる発音の矯正がおこなわれる。3.2北京夏期研修前後の発音分析前述のような発音指導を受けたら、どの学生もネイティヴに近づくように思われる。しかし、すべての学生の矯正に成功したわけではなかった。本項では学生に中国語の6つの単母音(/a/[a],/o/[o],/e/[],/i/[i],/u/[u],/u/[y])を発音させ、それぞれの第一フォルマント(F1)および第二フォルマント(F2)の数値を算出しグラフ化したものを示す。グラフ化する際、ソフトウェア「音声録聞見forWindows」を使用した。3.2.1教員による単母音の音価図1図2図1は本学科の于講師(女性)のデータである。于講師は北京で生まれ育ったため、標準的な中国語を話すことができると認められる。図2は筆者である。縦軸はF1の周波数(Hz)を示し、横軸はF2の周波数を示している。F1は発音時の口の開きに関係しており、周波数が小さいほど口の広がりが狭く、大きいほど口が大きく開いていることになる。F2は発音時の舌の最高点の位置に関与しており、周波数が小さいほ―63―中国語中国関係学科における北京夏期研修と通常授業との連携に向けた取り組み

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