中部大学教育研究11
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表のとおり、二期のクラスの授業時間と科目設定は同じである。授業実施週間は3週間であり、総授業時間は60時間である。授業科目は読解と会話、リスニングの3科目である。読み書きは中国語総合教育科目で、会話とリスニングはスキルを高める専門科目である。クラス分けについては、2010年は前年度の2009年と違い、同じレベルの2クラスに分けられた。各クラスは人数が10人前後で、語学教育に最適な条件が整っているといえる。2.1.2授業内容夏期研修は、3週間という短い授業期間内で学生のコミュニケーション能力の向上を目指し強化訓練を行うことが目的なので、文法の説明より会話と聞き取り練習を目標とする。日本語を使わない授業を通して、学生の聞き取れない、会話できないというコミュニケーション能力の欠如を最大限に補完することを到達点とする。使用教科書は以下のとおりである。読解:『漢語教程第一冊修訂本(上)』、北京語言大学出版社会話:『漢語口語速成入門篇(上)』、北京語言大学出版社リスニング:『漢語聴力教程初級(上)』、北京語言大学出版社以上の3冊はすべて日本語の注釈つきの教科書である。学生は3週間の学習を通して、日常に不可欠な会話のシチュエーションをほぼ網羅している。具体的に、言語表現について、「あいさつ、感謝、別れ、説明、問い合わせ、肯定と否定、要求、お詫び、気持ち」などの表現が挙げられている。会話のシチュエーションについては、「キャンパスライフ、会食、買い物、書店にて、銀行にて、友人との約束」などの場面が挙げられている。2.1.3教育方針北京夏期研修の最大の目的は、ことばの応用能力をいかに能率的に高めるかどうかにある。研修に使用された教科書は本学で使用したものと比べ、難易度に差がなく、しかも文法説明などの項目に日本語の注釈があるため、授業の重点を学生の「話す、聴く」能力の向上に置き、限られた授業時間を最大限にオーラルトレーニングに回すことになった。よって、文法の説明をほぼせずに授業を進めた。以上の教育方針に基づいて、夏期研修の授業の取り組みは次の3点にまとめられる。第1に、授業の主役を学生に演じてもらうこと。コミュニケーション能力を高めるには、ことばの反復トレーニングが不可欠である。教員側が基本表現を講じてから、学生一人一人に積極的に会話するように促す。第2に、実用性を重視すること。教員が説明するときに使う例文は、学生がすぐに活用できる、あるいは毎日のように使うことばを選び、初級の段階でも中国語でコミュニケーションできる喜びを学生に味わってもらうように心掛ける。第3に、独自の教育方法を導入すること。短期間かつ初級レベルの中国語教育に関しては、教員側と学生側の役割分担を明確にし、双方のフィードバックが必要である。具体的には、学生は授業に出る前に教科書の新出単語と日本語注釈つきの文法説明を予習し、教員は授業をするときに文法のポイントのみ提示し、それに基づいて、本文の会話文を軸に学生一人一人とモダリティーを変えて会話の練習をした後、学生同士での会話を発表させる。授業進行は以下のとおりである。①先ず、間違いやすい発音や文の正確なポーズを指摘しながら、教員の後について本文を朗読させる。②会話の登場人物をそれぞれ学生に担当させ、発表させる。発表中に間違った発音は教員が改める。③文法の説明はほとんどせず、間違いやすい表現を取り上げ、重点を置いて説明する。④意識的に前の課に出た単語や言語表現を使い、学生と置き換え練習をしながら、随時質問を出し、学生に答えさせる。こうすることで、学生が授業に意識を集中して受講するようになる。以上のような授業方法を取り入れた結果、授業開始前に行われた口頭試験の成績と授業終了時に行われた同様な試験に比べ、学生の「話せない」「聞き取れない」という弱点の大幅な改善がみられ、研修の目的が達成したと考えられる。2.2北京夏期研修への提言上述のように、夏期研修は予期通りの成果を収めたものの、問題点も現れたと思われる。それは、教材についてである。現時点で出版されている外国人向けの中国語教科書は、難易度は、ほぼ易しいものから難しいものへとステップアップするように編集されたものである。一方、夏期研修では長期留学向けの教科書を使用しており、その場合には大幅な取捨選択をしなければならない。教員にせよ、学生にせよ、体系的に教える、また体系的に学ぶことができないことは事実である。使用した教科書は内容上、関連性が薄いため、開講科目にも影響を及ぼした。読解と会話、リスニングの3科目は、長期留学向けの教科書を選定した。それぞれの授業には異なる重点が置かれているが、教科書の―62―和田知久・于小薇・宗・伊藤正晃
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