中部大学教育研究11
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もに、中国事業本部長である本学出身のI氏に中国ビジネスに関するレクチャーを受けた。K産業は、もともと碍子を製造していた企業で、その後配電盤や大型コンピュータの躯体などの電器関連製品を製造し、中国にも以前より進出している。工場見学では、主な業務や製品について説明を受けた後、配電盤製作のラインを見学し、メーカー企業の姿を理解した。その後1時間程度、中国事業本部長をつとめるI氏から中国への進出と、中国市場の条件などについてレクチャーが行われた(図1)。レクチャーについては、本学科2年生のレベルを超える内容もあり、十分に消化できていない受講生もいたものの、工場見学も含めて、机上ではイメージしきれなかった「メーカー企業」と、その中国進出の実情を目の当たりにできたことは、この授業のテーマである「中国進出企業研究」には重要であったものと思われる。前述のように本学科は中国語や中国研究に特化したやや特殊な学科であるため、「中国進出」を軸とした企業見学は可能であり、またこれを早い時点で行うことは就職活動やキャリア形成を受講生に考えさせる上で重要であるように思われる。理系学科ではこのような企業見学は当たり前なのかもしれないが、本学に限らず文系学科では、あまり行われてきていないのではないだろうか。本学科のようなやや特殊な「出口」を持つ文系学科では、同様の企業見学は可能なのではないかと考える。5まとめ―学科ごとの「キャリア教育」に向けて最後に、ここまでに述べた「研究入門B」の授業内容について、受講生の反応や評価、教員側からの内容および運営上の問題などについて検討し、今回の取り組みの評価と、今後の方向性について考察し、まとめとしたい。今回の「研究入門B」内容は、①調査・体験を通じて社会科学(特に経済・経営学)の基礎を学ぶという目標と、これを契機として、②将来本学科の学生の現実的な就職先として考えられる中部圏の中国進出企業について理解を深めておくという目標があった。いわば、複合系学科のディシプリン教育とキャリア教育を一気に行おうとする試みともいえる。上記の2点について、その効果や問題点、運営上の留意点などについてみてみたい。なお、「研究入門B」終了直前に、学生に無記名の自由記述式アンケートを取っており、これと教員側の所見とをあわせて検討したい。まず上記①の点についてであるが、インタビューや見学などさまざまな実体験を通じて学ぶことについては、教員側はこれまでの学生の姿から考えて有効な「はずである」という思いからはじめている。授業のおわりに行った学生へのアンケートでは「わかりやすい」という意見も見られたが、全く無反応の回答も多かった。これはそもそも「実体験と授業は結びつくものではない」という根強い誤解も背景にあるように感じられた。また初めての試みであったため、教員側の準備した内容や、グループワークで要求するレベルと、学生側の基礎能力・知識にやや齟齬があったように思われる。特に企業研究の個人発表などにおいて、何らかのフォーマットが無かったためか、主要なデータの入手方法を教えたにもかかわらず、「企業を調べろといっても何をしてよいかわからない」と戸惑う声もあった。受講生の中には企業そのものへのイメージが極端に乏しい者もおり、やや要求レベルが高かったかもしれない。カリキュラム上では、同時に「中国経営論」を実施しているのだが、これを有効に結びつけることが難しかった。次年度には、個人発表については「教員の模範演技」を入れ、レベル的にはより基礎的な部分から教授しつつ他科目との連携を強めるなど、やや修正をかけるという方向で考えている。上記②の点については、2年生の段階では、ごく一部の専門科高校卒の者を除いて、就職やキャリア形成については、「まだまだ先の話」で「実感がない」ようであり、この授業のねらいの一つである「業界研究」する以前の段階であるかもしれない。ただし卒業生のインタビューについては、先輩の経験談でもあり、これを聞くことはためになったとの意見がアンケートやレポートの中で多く見られた。これを契機に、全く企業のイメージがない状態からは脱しているとも言え、このような体験は2年生という早い時点でさせておくことは有効であると考える。前述の企業訪問に関しては、受講生から「われわれ―58―澁谷鎮明・舛山誠一写真1K産業・I氏によるレクチャー(K産業本社にて)

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