中部大学教育研究11
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る。杉若(1995)は、この2つの下位概念に、セルフ・コントロールとは異なる対処方略を意味する外的要因による行動のコントロールを加えた3つの下位尺度で構成される、日常生活で観察されるセルフ・コントロール行動の個人差を評価する尺度(RRS)を作成した。今回はこのRRSのうち、先行研究(杉若,1995)の因子分析結果において、各因子に高い因子負荷量を示した5項目ずつ、計15項目を抜き出して使用した。項目例は、「仕事に神経を集中できないときには、小さな目標を立てて少しずつ処理していく」(改良型)、「自分を悩ませる不愉快な思いに打ち勝てないのは、いつものことである」(外的)、「不愉快な思いに悩まされるときには、何か楽しいことを考えるようにしている」(調整型)というものであり、今の自分自身の考え方にどの程度当てはまるかについて「全く当てはまらない(1点)」から「非常によく当てはまる(6点)」までの6段階で回答を求めた。プレテストにおける内的信頼性を検討したところ、α=.73(改良型),.53(外的),.55(調整型)であった。外的要因による行動のコントロールと調整型セルフ・コントロールについてはα係数が低いが、項目-全体間相関は正の値を示していることと、先行研究と同様の意味内容によって結果を検討するために、杉若(1995)と同じ3下位尺度のまま分析を行った。ビッグファイブパーソナリティ人間のパーソナリティ(性格)全体を5つの次元から測定するビッグファイブモデルがある。5つの次元とは、神経症傾向(情緒的な不安定さ)、外向性(活発さ、社交性)、開放性(知的な柔軟さ)、協調性(やさしさ、利他性)、勤勉性(まじめさ)の5つである。Oshio,Abe,&Cutrone(2011)による日本語版TenItemPersonalityInventory(TIPI-J)を使用した。TIPIは10項目で構成されており、「全く違うと思う(1点)」から「強くそう思う(7点)」までの7段階で回答が求められた。2.2毎週の授業時に使用した項目授業を通した受講生の意識の変化を把握するために、毎回の授業終了時に、授業の振り返りの記述とともに質問項目への回答を求めた。次の8つの質問項目に対し、「全く当てはまらない(1点)」から「とてもよく当てはまる(5点)」までの5段階で回答を求めた。項目内容は次のとおりである:「今回の授業に積極的に参加することができた」「今回の授業でうまくいかないことがたくさんあった」「授業の中で他の学生から影響を受けた」「授業の中で他の学生に影響を与えた」「毎日の生活が充実している」「やる気がおきないことが多い」「今の自分に自信をもっている」「今の自分に満足できない」。2.3調査概要と調査対象者「自己開拓」受講者に対しては、初回の授業においてプレテスト、最終回の授業後にポストテストを実施し、毎回の授業終了時に8つの質問項目に対する回答を行った。なお、「自己開拓」は15週の授業期間のうち前半8週で受講する学生と後半8週で受講する学生にわかれているが、これらの調査は前半、後半で同様に行われた。対照群については、「自己開拓」を受講していない一般教養科目の受講生に対し、10月にプレテスト、1月にポストテストが実施された。「自己開拓」に参加した者のうち、それぞれの調査に参加した者と、調査を照合できた者の内訳は、次のとおりである。プレテストについては、前半の「自己開拓」受講生のうち79名、後半の受講生のうち63名、計142名分のデータを得た。ポストテストについては、前半の「自己開拓」受講生のうち65名、後半の受講生のうち63名、計128名分のデータを得た。そして、プレテストとポストテストでデータを照合できた者は、前半の「自己開拓」受講生のうち61名、後半の受講生のうち51名、計122名であった。毎週の授業時での調査に参加した学生は授業によって異なるが、128名(第8回)から142名(第1回)までの受講生が調査に参加した。これらのうち、8回すべての調査に参加した学生は70名であった。対照群のプレテストに参加した学生は84名、ポストテストに参加した学生は72名であった。両調査に参加し、データを照合できた学生は45名であった。3結果と考察3.1授業時期・教室の効果「自己開拓」は、秋学期の前半と後半に授業時期が分かれていた。また、「自己開拓」におけるグループワークは3教室に別れ、それぞれ異なる担当教員が授業を行った。分析に先立ち、前半の授業実施と後半の授業実施、またグループワークの教室で、プレテストやポストテストの得点が有意に異なっていたかどうかを検討する必要があると考えられる。そこで、自尊感情、進路選択に対する自己効力、時間的展望、セルフ・コントロール、ビッグファイブパーソナリティそれぞれを従属変数とし、授業群(「自己開拓」前半群と後半群;被験者間要因)×教室(3教室)×調査時期(プレテストとポストテスト;被験者内要因)の3要因混合計画の分散分析を行った。分析の結果、いずれの従属変数においても、交互作用や授業群および教室の主効果は有意ではなかった。これらの結果は、「自己開拓」の受講が前半であっても後半―50―小塩真司・ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文

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