中部大学教育研究11
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1はじめに中部大学では2010年度より、キャリア教育科目のひとつとして「自己開拓」という名称の授業をスタートさせた。この授業は、参加型グループワーク形式で行われ、学生どうしの相互作用を通じて、自分自身の意識を変えていくことを目的としている。「自己開拓」は、8週間にわたって行われる。各週は1日2回連続で授業を行い、計16回の授業時間が設定されている。第1週には授業の全体的な説明と、学生が相互に知りあうための実習が行われた。また、第2週では作業を通じて生じる出来事に気づくこと、第3週ではメンバーの機能について考えること、第4週では互いの価値観の相違を理解することに焦点を当てた実習が行われた。そして、第5週と第6週には、教員を対象としたインタビューを行ない、発表することを通じて自分自身の生き方を考える作業を行った。さらに第7週では授業の振り返り、そして第8週では自分の将来に焦点を当てる実習が行われた。毎週の詳細な授業内容については、別報を参照して欲しい。では実際に、これらの授業を通じて、受講生にはどのような変化が生じたのであろうか。本研究では、いくつかの心理学的変数を用いて、授業前後の変化を検討する。またその際には、「自己開拓」を受講していない学生を対照群として調査対象とし、受講生との比較をすることで、「自己開拓」の授業効果を明確にする。2方法2.1プレ・ポストテストに使用した尺度以下の尺度を、授業前後および対照群に対して実施した。自尊感情自分自身に対する肯定的な感覚を意味する。高得点であるほど、自分を肯定的に捉え、自信があり、自分に満足している傾向を意味する。桜井(2000)による自尊感情尺度を使用した。この尺度は「私は、自分に満足している」「私はたいていの人がやれる程度には物事ができる」などの10項目で構成されており、それぞれの質問項目に対して、現在の自分に最もよく当てはまる選択肢を「いいえ(1点)」から「はい(4点)」までの4段階で回答させた。プレテストにおける内的信頼性を検討したところ、α=.75であった。進路選択に対する自己効力自分自身がどの程度うまく出来るだろうという予想を効力予期という。そして、あるものごとに対して認知された効力予期を、自己効力という。この尺度は、進路選択に対して認知された効力予期すなわち自己効力を測定する。本研究では、浦上(1995)によって構成された進路選択に対する自己効力尺度を使用した。この尺度は「自分の能力を正確に評価すること」「自分が従事したい職業(職種)の仕事内容を探すこと」「一度進路を決定したならば『正しかったのだろうか』と悩まないこと」などの30項目で構成されており、それぞれの項目についてどれくらい自信があるかを「全く自信がない(1点)」から「非常に自信がある(4点)」までの4段階で測定した。この尺度によって測定された得点が高得点であるほど、進路選択がうまくいくと認識し、進路選択行動を活発に行う傾向にあることを意味する。プレテストにおける内的信頼性を検討したところ、α=.91であった。時間的展望より遠くの将来や過去の事象が現在の行動に影響するという時間的展望の広がりを測定する、時間的展望尺度(白井,1991)を使用した。この尺度は「私の将来は漠然としていてつかみどころがない(逆転項目)」「毎日がなんとなく過ぎていく(逆転項目)」「私の将来には希望がもてる」などの19項目で構成されており、自分自身にどれくらい当てはまるかについて「当てはまらない(1点)」から「当てはまる(5点)」までの5段階で回答が求められた。この尺度によって測定された得点が高得点であるほど、過去や未来へと広い時間的な展望を持つことを意味する。プレテストにおける内的信頼性を検討したところ、α=.81であった。セルフ・コントロール直接的な外的強制力がない場面で、自発的に自己の行動を統制することをセルフ・コントロールと言う。この中には、ストレス場面において発生する情動的・認知的反応の制御を意味する調整型(Redressive)セルフ・コントロールと、習慣的な行動を新しくしてより望ましい行動へと変容していく改良型(Reformative)セルフ・コントロールがあ―49―中部大学教育研究№11(2011)49-54新たなキャリア教育科目の効果-「自己開拓」による学生の心理的変化-小塩真司・ハラデレック裕子・林芳孝・間宮基文

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