中部大学教育研究11
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1問題と目的これまでに、筆者らの研究グループは、新入生を対象としたアンケートの中から大学および学科選択への満足度を取り上げ、継続的に成果を発表してきた。ここでの満足度とは、「中部大学に入学し、現在の学科を選んだことについてあなたの気持ちは」という質問に対し、「満足である」から「不満である」までの5段階で回答された内容のことを指す。たとえば、小塩・願興寺・桐山(2006)では、学部別の満足度の得点を検討し、経営情報学部新入生の満足度がやや低いことを示した。小塩・願興寺・桐山(2008a)では、人文学部全体および学科ごとに、2007年度新入生までのデータを用いて、学科選択理由が満足度に及ぼす影響を検討した。小塩・願興寺・桐山(2008b)では、分析対象を1998年度から2008年度において全学部・学科へ入学した新入生に広げ、分析を行った。山田(2009)は、全国の国公私立大学生を対象とした調査から、およそ8割の大学生が自分の所属大学に対して満足感を抱いていること、設備面での満足感が高い学生が多い反面、教育システムや進路支援などソフト面での満足感が高い学生は少ない傾向にあることを明らかにした。このように、大学においてどの程度満足であると感じるかは、領域によって異なるようである。本学においては、どのような要因が満足度に影響を与えているのであろうか。小塩・吉住・佐藤・願興寺・桐山(2010)では、1998年度から2010年度の全学部・学科への新入生を調査対象として、入学年度による満足度の変化と、満足度に影響を及ぼす要因を検討した。そして、第1に、満足度は入学年度によって徐々に変化することが明らかにされた。これは、学部・学科によって変化の方向性が異なっており、単に一定方向への変化をするだけでなく、何らかの理由により上下に変動する可能性が示唆されたことを意味する。第2に、新設された学科は比較的高い満足度をもつ新入生が多いことが示された。ただし、すべての学部・学科についてそう言えるわけではなく、学科の特徴やその学科の学問上の特徴、教員の意識や教育上の工夫、学生との接し方等、様々な要素がかかわることが推測された。そして第3に、満足度に影響を及ぼす要因のひとつとして、自律的な大学・学科選択を行うことが示唆された。大学受験に際し、不本意な入学や友人の影響など他律的な大学選択よりも、自ら決めることが満足度の向上に影響を及ぼすようであった。このことから、受験生が自らの選択で大学選択を行うための進路指導につながる施策を行うことが、入学後の新入生の満足度の高さにつながると示唆された。これまで、大学および学科選択満足度については、入学時のアンケートを分析対象としてきた。では、入学後の満足度はどのように変化していくのであろうか。鈴木・藤生(1999)は、大学入学直後の4月と、入学6か月後の10月において、同一の対象者に調査を行っている。そして、大学入学時において友人との良好な経験をもち、大学に期待をもつ学生は、10月時点でより大学生活に満足していることなどを示している。また、4月の友人数は満足度に関連していないが、10月の友人数は満足度と正の関連を示した。このことは、大学に対する満足度と入学後の学生生活のあり方との間に相互のかかわりが生じる可能性を示唆する。本研究は、2009年度に中部大学に入学した学生について、入学直後の大学・学科選択満足度と1年後の満足度を比較することを試みる。さらに、満足度に関連する要因として、第1に悩みの内容、第2に相談相手の種類、第3に大学生活の充実度を取り上げる。見舘・永井・北澤・上野(2008)は、大学生の学習意欲や満足度を規定する要因として、教員や友人とのコミュニケーションを取り上げて検討している。見舘ら(2008)における質問項目を見ると、その研究で取り上げられている教員や友人とのコミュニケーションとは、質問や相談ができる相手としての教員や友人のことである。本研究では、教員や友人以外にも、父母など親族や、事務職員、学生相談室との相談関係にも広げて検討する。また、相談という行為を行う前段階として、具体的な個別の悩みがある。小塩・桐山・願興寺(2006)は、大学新入生の悩みの内容が入学年度によって変化してきていることを示しているが、個別の悩みの内容と全体的な満足度との関連は検討されていない。―23―中部大学教育研究№11(2011)23-27大学入学時と1年後の満足度-学科選択満足度の変化と関連要因についての探索的検討-小塩真司・佐藤枝里・願興寺礼子・桐山雅子

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