中部大学教育研究11
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3.4職業知識9個の質問項目の10年間924名の評定平均値とSDを表4に示す。これを見ると、すべての項目の評定平均値が中央値の3.0を下回っており、入学生の職業知識が全般的に極めて乏しいことがわかる。次に、年度間で違いがあるかを見るために、前項と同様、項目毎に年度を参加者間要因とする1要因分散分析を行った。その結果、年度間に有意差が認められたのは、9項目中5項目で(項目1:F(9,914)=1.82,ns;項目2:6.26,p<.01;項目3:2.51,p<.01;項目4:3.40,p<.01;項目5:4.24,p<.01;項目6:3.99,p<.01;項目7:1.18,ns;項目8:1.14,ns;項目9:1.33,ns)、有意差のあった項目の評定平均値のみグラフ化し(図5)、図4と同様、HSD下位検定結果を記入した5)。図5を見るとわかるように、年度間に変動のあった5項目すべての平均評定値は、2002年度に最も高く、2006年度か2007年度がそれに継いで高い他は、極めて低かったことがわかる。新設時の2002年前後は臨床ブームであったことと、先述したように、新設直後に入学する学生が新設学科の情報をきちんと集めてから受験する傾向にあることを考えれば、2002年度の知識がある程度高かったことは理解できる。一方、2006年度、2007年度前後に評定値が再度高まった原因は定かではないが、臨床心理士を扱ったテレビドラマが放映された等、マスコミの影響があった可能性が高い。なぜなら、年度間の変化が認められたのは9項目のうちの、臨床心理士に関する項目だけだったからである。この考え方が確かならば、臨床ブームの火付け役はマスコミで、彼らの知識はそれに基づいた浅薄なものだった可能性があるということになる。実際、2002年度、2006年度、2007年度の評定平均値が高いとは言っても、それは中央値の3.0前後、つまり、「どちらともいえない」程度であり、入学生の職業知識はおしなべて非常に低かった。図1に示したように、2002年度当時はほぼ半数の入学生が臨床心理学を志していた。それにもかかわらず臨床心理士、スクールカウンセラー、公務員の心理職についての知識が中央値前後であったということは、こうした業種について自ら詳しい情報を調べることなく、単に臨床ブームにのったマスコミの情報をもとに進路を選択した可能性があることを示唆している。最近では臨床ブームも収まり、偏った知識を持つ学生は少なくなった。事実、図1からわかるように、入学生の関心領域は最近は分散化してきた。そして、図4に示されているように、最近では一般企業への就職希望も高まった。今後は、臨床心理士や公務員の心理職だけでなく、一般職の公務員、警察官、企業内で登用される産業カウンセラーに関する情報や、調査・実験のノウハウとITや統計処理に関する基礎知識の企業内での活かし方等、職業に関する幅広い情報提供をしていく必要がある。4結論4.1まとめ新入生の関心領域は、新設時の2002年度から2007年度、2008年度前後までは臨床ブームの影響で臨床系に偏っていた。しかしその後は実験系に分散し、2011年度現在は偏りが解消されていることがわかった。ただし、2010年度の入学生だけが一時的に2002年度の入学生に近い傾向を示した。これは、例年と比べて非常に多かった2010年度の入学生の中に心理学について十分な知識を持っていなかった学生が含まれていたためである可能性があると考えられた。コンピュータに対する態度は、2002年度の入学生が他の年度の入学生に比べてややポジティヴだったこと、2010年度の入学生が他の年度の入学生に比べてややネガティヴであったことが明らかとなった。前者は、新設時の入学生が心理学科についての情報をよく調べ、十分な事前知識を持っていたためであり、後者は、先―19―心理学科新入生の10年間の変化表4職業知識の質問項目と10年間924名の評定平均値とSD

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