中部大学教育研究11
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す項目の評定平均値が比較的低い等、望ましい傾向が認められることがわかる。ただし、項目毎に年度間の違いを見ても全貌がわかりづらいため、項目のまとまりで尺度を構成し、尺度毎に年度間の比較を行うものとした。924名のデータに主因子法、バリマックス回転の因子分析を施し、スクリープロットを参考に4因子を抽出した。そして、4つの尺度を構成し(表2)、尺度1を興味尺度(α=.852)、尺度2を不安尺度(α=.849)、尺度3を好奇尺度(α=.830)、尺度4を有用感尺度(α=.764)と命名した。年度毎の各尺度の評定値の平均値、すなわち、下位尺度得点を図3に示す。各下位尺度得点に年度間で差があるか否かを調べるために、尺度毎に年度を参加者間要因とする1要因分散分析を行った結果、すべての尺度で年度の主効果が有意であった(尺度1から順に、F(9,914)=4.46;2.90;3.68;2.95;allp<.01)。どの年度間に差があるかをHSD検定した結果も、図3に示してある3)。1.興味尺度のグラフを見ると、2009年度の下位尺度得点と他のいくつかの年度の下位尺度得点に有意差があり、2009年度が最も低かったことがわかる。この原因を考えるために2009年度の入学生の他の尺度の下位尺度得点を見てみると、2009年度の入学生は、2.不安尺度の下位尺度得点が最も高く、4.有能感尺度の下位尺度得点が比較的高かった。これらを併せて考えると、この年度の入学生は、コンピュータは有用だと考えているものの、不安が高いため、興味が低減されてしまっていた可能性がある。2009年度入学生は2011年度の現時点で3年次生である。その後の彼らの不安が低減し興味が増大したか否か、こうした傾向が成績等にどのような影響を及ぼしたかについては、慎重に追跡調査する必要がある。2.不安尺度のグラフを見ると、2010年度の入学生の不安が最も低く、2004、2006、2009年度の入学生より有意に低かった。ただし不安は、低ければよいと言うものではない。根拠なく不安が低いのはすなわち楽観であり、事前知識が少なく考えが甘いという可能性も考えられる。実際、注2に記したように、2010年度の入学生は事前知識が少ない者が多いという特徴を有している。不安には古くから、学習を阻害するネガティヴな側面もあるが、学習を促進するポジティヴな側面もあることが知られている(Alpert&Haber,1960;杉浦,1999)。実際、藤岡(1988)は、学習に関する有能感と学習動機の関連を調べ、有能感の高い者ほど学習を促進させるテスト不安が強いことを見いだし、その促進効果の存在を確認している。この考え方を検証するために2010年度の入学生の他の尺度の分析結果を見てみると、2010年度の入学者の下位尺度得点は、1.興味尺度、3.好奇尺度、4.有用感尺度のすべてで他のいくつかの年度の入学生の下位尺度得点より有意に低くなっている。特に4.有用感尺度については、2010年度入学生以外はすべてほぼ等しく高いにもかかわらず、2010年度だけが逸脱して低い。今後は、2010年度入学生、現時点での2年次生のこうした特性が、コンピュータを利用した講義や実習での学習態度や成績にどのような影響を及ぼしてきたかを、他の年度の入学生のそれと比較・検討する必要がある。3.好奇尺度のグラフからは、2002年度の入学生の下位尺度得点が他の多くの年度の入学生よりも高かったことがわかる。一般に、新設時に入学する学生は新設学科の情報をきちんと集めて受験するなど、やる気や向学心が高いと言われている。本研究結果はそれを裏づけているのかもしれない。ただし、2011年度を含め、2002年度と有意差のなかった年度の入学生の下位尺度得点は、2002年度より著しく低かったわけではない。したがって、2011年度現在の入学生も、コンピュータに対してある程度高い好奇心を抱いていると考えられ、非常に望ましい。4.有用感尺度のグラフからは、先の2.不安尺度のグラフ考察で述べたように、2010年度の入学生のみ、他の多くの年度の入学生よりもコンピュータの有用性を十分知らない様子がうかがえる。これは先述した通り、例年より大幅に多かった2010年度の入学生の心理学やコンピュータについての知識が他の年度の入学生よりも少ないことに起因していると考えられる。よって2010年度の入学生、現時点での2年次生にはコンピュータの用途や有用性についてより丁寧な解説をするとともに、コンピュータを利用する科目での学習態度や成績に十分注意を払っていく必要がある。3.3希望する進路表3に、14個の質問項目と、10年間924名(項目13、14に関しては2004年度以降の8年間728名)の評定平均値とSDを示す。最も高いのは項目1の認定心理士の資格を取得したいという項目、2位が項目9の公務員、3位が項目12のスクールカウンセラーと続いている。3位のスクールカウンセラーについてはほとんどの場合、項目2の大学院入学と臨床心理士の資格取得が必要である。その項目2の評定平均値がスクールカウンセラーになりたいという項目12より下回っていることは、スクールカウンセラーに関する知識が不足していることを示唆しており、この点については、次項―15―心理学科新入生の10年間の変化

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