中部大学教育研究11
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1問題と目的中部大学の心理学科は,2002年度に人文学部に新設された。新設直後は入学してくる学生が、1)どのような領域に関心があるのか、2)コンピュータに対する態度はどうか、3)希望する進路は何なのか、4)どの程度の職業知識を持っているのか等が、全く不明であった。そこで筆者は、これらの点を明らかにし、入学してくる学生の適性や希望に即した教育・指導を行いたいと考えた。そして、80以上の質問項目から成る心理学科アンケートを作成し,新設直後に実施して指導の指針とし、それをその後も10年間継続してきた1)。本論文は、10年間のデータを比較・検討し、新入生の特性の変化を明らかにすることを目的とした。1.1新入生の関心領域心理学には、心の問題を扱う臨床心理学だけでなく、人間の情報処理過程を扱う認知心理学、学習過程を扱う学習心理学、発達過程を扱う発達心理学、社会的行動を扱う社会心理学、教育過程を扱う教育心理学、学校での行動を扱う学校心理学、人格の特性や形成過程を扱う人格心理学、障害者の問題や行動を扱う障害者心理学、膨大なデータの客観的比較・検定のための心理統計学等、実に様々な領域がある。中部大学の心理学科はこうした様々な領域を満遍なく教育することを目指して作られた、私立大学ではめずらしい正統派の心理学科である。しかし、高校までは心理学を体系的に学ぶ機会がないため、高校生はもちろんのこと一般の人々の多くは臨床心理学しか知らない。特に、新設された2000年代前半はいわゆる臨床心理学ブームで私立大学の多くが臨床心理学に特化した心理学科を数多く新設していた時期だった。そのため、中部大学に入学してくる学生の関心が臨床心理学に大きく偏っていることが懸念された。そこで、彼らの関心領域を明らかにし、偏りがある場合はこれを解消し、適切な導入教育を行う必要があると考えた。1.2コンピュータに対する態度心理学は文系の学問である。しかし心理学は行動科学とも呼ばれる通り、実験、調査、面接、観察等で得られた人間行動に関する大量のデータを統計解析して客観的な知見を得るという極めて理系に近いパラダイムをとる。そしてこうした統計解析のためにはコンピュータが必須である。また、実験はコンピュータ制御で行うものがほとんどで制御プログラムの作成も必要となる。しかし、文系を選び心理学を学ぼうと入学してくる学生たちは、こうした事実をほとんど知らない。そのため、新入生の多くがコンピュータにあまり興味がなく、嫌悪感すら抱き、その有用性を知らず、利用不安が高いことが懸念された。そこで、新入生のコンピュータに対する態度を調査し、興味・関心の有無、嫌悪感や不安の高低、その有用性についての知識の程度を知り、食わず嫌い的な偏見の解消に役立てたいと考えた。1.3希望する進路中部大学の心理学科のカリキュラムは、卒業とともに認定心理士の資格が取得できるように作られている。認定心理士の資格は、先述した数多くの心理学領域の基本的な知識を満遍なく取得してはじめて得られるものであり、こうした知識は公務員試験、心理学検定、大学院の入学試験等に非常に役に立つ。また、中部大学は、中部地方に根付いた歴史ある大学で卒業生の多くは地元の中小企業に就職しており経営者となっている方も多い。心理学科の卒業生はこうした企業の産業カウンセラーになる基礎知識も有している。教員免許についても所定科目の単位を修得すれば中学校教諭一種免許状「社会」および高等学校教諭一種免許状「公民」を取得できるため、教職に就くことも可能である。加えて、学部新設の2年後の2004年度には国際人間学研究科という新しい大学院に心理学専攻が設置され、博士前期課程と博士後期課程の教育体制が整った。博士前期課程では「学校心理士」認定運営機構に承認された科目の単位を修得すれば学校心理士の受験資格が得られる。また教職についても、高等学校教諭一種免許状「公民」を取得済みの者は修士の学位および『教―11―中部大学教育研究№11(2011)11-22心理学科新入生の10年間の変化-関心領域・コンピュータに対する態度・希望する進路・職業知識-水野りか

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