中部大学教育研究11
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ほとんどいなかった。教員との関係も、大福帳を用いて個人を意識したコミュニケーションを図ることができているため、受講意欲の程度は比較的高い(太田,2010)。また、画像入り名簿や名前カードを用いて個人の特定を容易にしているため、講義内における逸脱行動の抑止力となっている。3.2マナーおよびルールの理解ルーブリック作成の実習では「あいさつ」の基準を作成させているが、学生はあいさつの評価基準を作ることによって、現在の自分のあいさつがどの評価に該当するかを自覚できるようにした。また、他の学生のあいさつを評価することによって、あいさつの大切さを再認識する者が多かった。講義後の大福帳への記述においても、自身のあいさつについて言及した者が多かった。また、中間試験実施時には、学生証を忘れたときの対処など、定期試験の受験時のルールについて丁寧に解説した。実際の試験で大学でのルールの確認することで、他の科目の試験を受験する際の心構えを形成している。また、配点を低くすることで、中間試験の成績が悪くても期末試験で挽回できるようにしている。実際に、中間試験の成績が平均点を下回る学生であっても、期末試験で高得点を取る学生もおり、中間試験での失敗を挽回しようとして結果を残している学生が存在する。3.3学習活動の振り返りと方向づけ教育評価について扱っている科目であるため、講義内容と関連させて自身の学習活動の振り返りを行った。第7回では中間試験のフィードバックコメント作成、第9回では中間試験の偏差値算出、第12回ではルーブリックに基づいた自己評価、第15回では各講義内容の理解に関する所見作成と、学習活動に対する自己評価の機会を多くすることで、自身に対する啓発を促している。自己評価の作成はワークシートに記述させているため、学生は試験勉強時に自身が記述したワークシートも参照することになる。自身の取り組みに対する評価を参照することで、学習への動機づけへとつなげていくことをねらいとしている。また、本講義で扱う内容の大部分は高校での学習を基礎としないため、講義当初は学習方法に戸惑う学生が多い。そのため、クラスの雰囲気づくりが進んだ第5回・第6回の講義において、試験対策を兼ねた問題作成演習を実施している。自分で問題を作るだけでなく、他の学生の作成した問題にも積極的に解答を促すため、1クラスあたり200件から300件の投稿が授業時間内に行われた。授業後の投稿もあるため、中間試験直前には600件程度の投稿数となっていた。期末試験は講義内での問題作成は実施せず、授業時間外での投稿を指示しているが、1クラスあたり800件から900件程度の投稿数となった。問題を作成するためには授業内容を振り返る必要があるため、その過程が授業の復習となる。また、出題のポイントを考えながらの復習となるため、重要な箇所に意識を向けることができている。試験対策として何をすればよいかがわからない学生にとっても、他の学生が投稿した問題に解答するだけでも問題演習となるため、学習の方針も立てやすくなっている。講義後の授業評価では、自分の作成した問題に返信がある(他の学生が解答してくれる)ことが励みになった、との記述が複数見られるため、学生どうしのつながりを意識した活動によって学習意欲の向上が図られたことがうかがえる。4おわりに本稿では特定の科目における初年次教育を意識した授業づくりの例を紹介した。改めて振り返ると、対人的な適応(学生どうし、教員-学生間)をはかる取り組み(ジグソー学習,大福帳等)を早い段階から取り入れていることが分かる。これは、対人的な適応をはかることで、集団への帰属意識の形成を促すためである。したがって、初年次教育の教育内容を考える上で対人的な適応をはかることは欠かすことのできない視点であることを最後に指摘しておきたい。引用文献川島啓二2008初年次教育の諸領域とその広がり初年次教育学会誌,1,26-32.太田伸幸2008教育評価を教育する―教育統計学基礎における実践―中部大学教育研究,8,89-92.太田伸幸2010講義ツールの活用が受講意欲・学習行動に及ぼす影響現代教育学研究紀要,3,43-52.私学高等教育研究所2005私立大学における一年次教育の実際http://www.shidaikyo.or.jp/riihe/book/pdf/sousyo4.pdf(最終アクセス日2011年9月20日)准教授教育実習センター全学共通教育部初年次教育科現代教育学部児童教育学科―116―太田伸幸

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