中部大学教育研究11
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1はじめに1.1初年次教育で扱う内容初年次教育とは、一般的に大学新入生に対して提供される様々な教育・指導を指す。私学高等教育研究所(2005)が2001年に実施した調査において、導入教育(一年次教育)の実施率は80.9%であり、10年前の時点においても高い実施率であったことがわかる。しかし、この調査における導入教育とは、①補習教育(大学での学習・研究の前提として必要で、かつ本来高等学校までの教育において習得すべき内容の教育)、②スタディ・スキル(一般的なレポート・論文の書き方や文献の探し方、コンピュータ・リテラシー)の教育、③スチューデント・スキル(大学生に求められる一般常識や態度)の教育、そして、④専門教育への橋渡しとなるような基礎的知識・技能の教育の4つの側面を涵養する教育と定義していたため、該当する学部が多くなったと考えられる。2007年にも同様の調査が実施され、川島(2008)が、初年次教育の内容を、①スタディ・スキル(レポートの書き方、図書館の利用法等)、②スチューデント・スキル(学生生活における時間管理や学習習慣、社会生活等)、③オリエンテーションやガイダンス(履修案内、大学での学び等)、④専門教育への導入(○○学入門、専門の基礎演習等)、⑤教養ゼミや総合演習など学びへの導入を目的とするもの、⑥情報リテラシー、⑦自校教育(自大学の歴史や沿革等)、⑧キャリアデザイン(将来の職業生活や進路選択への動機づけ、自己分析等)の8領域に分け、それぞれの分野の実施状況について考察を行っている。スタディ・スキルについては90.2%の実施率であり、2001年調査の80.9%と比較しても高く、初年次教育の内容の中心を担っていると考えられる。また、⑦自校教育(52.0%)、⑧キャリアデザイン(42.6%)以外の分野は、必修科目として実施している学部が70%を超えていた。1.2補習教育から適応教育へ川島(2008)であげられた教育内容のうち、自校教育とキャリアデザインは2001年調査には見られなかった分野であり、直接的に学力を保障するための教育内容ではない。スタディ・スキルが高等教育への学力的な適応をはかるための教育内容であるとすれば、2001年度調査にも見られたスチューデント・スキルに加え、自校教育、キャリアデザインは大学そのものへの適応、大学生活の活性化を図るための教育内容とみることができる。1.3中部大学おける初年次教育科目中部大学では、2010年度より全学共通教育科目として、初年次教育科目「スタートアップセミナー」を開講した。共通項目として、①大学の基本理念、教育上の使命、教育目的、②学生生活のライフプランとキャリアデザイン、③大学における学びのスキル、④社会生活の基礎があげられている。これを、川島の分類に照らすと、①が自校教育、②がキャリアデザイン、③がスタディ・スキル、④がスチューデント・スキルに相当する。このほかに学科裁量で実施する項目があるため、必ずしも適応教育の割合は高くなるわけではないが、各学科のカリキュラムに大学への適応をはかる教育内容が必ず含まれることは確かである。1.4初年次の学生に対する教育さて、初年次教育の目標はこうした特定の科目のみで達成されるわけではない。初年次教育がFirst-YearExperienceと訳されるように、大学新入生に対して行われる試み(恵那研修、各種オリエンテーション等)やそれぞれの科目も重要な役割を果たしている。実験レポートの書き方実習施設の利用法、アクティブ・ラーニング等、初年次の学生に対して有効な教育内容・教育方法を涵養しているのであれば、初年次教育になると考えるべきであろう。そこで、本稿では、筆者が1年春学期に担当している科目を取り上げ、一般の授業における初年次の学生に対する取り組みの例を紹介する。2教育統計学基礎2.1科目の概要筆者が担当する教育統計学基礎は、1年春学期に開講される学部共通科目である。幼児教育学科は選択科目としているが、児童教育学科は指定科目としているため、児童教育学科の学生は原則全員履修することとなっている。講義で数回パソコン実習を行うため、学籍番号順に2クラスに分割し、1クラスあたりの人数―113―中部大学教育研究№11(2011)113-116初年次教育を意識した授業づくり太田伸幸

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