中部大学教育研究11
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5考察5.1初年次教育が自己教育力へ与える影響自己教育力において、スタートアップセミナー前後で有意に上昇した因子は「Ⅲ.学習の技能と基盤(p<0.05)」であった。今回行ったスタートアップセミナーの内容は、自己教育力の中でも学習スキルの習得に効果があったと考えられる。これは、中部大学スタートアップセミナー共通内容「大学における初歩的な学びのスキル」を受けた取り組みの結果であり、成果は得られたと考える。項目別では、「自分で調べたいことがある時に図書館を利用している」、「考えを深めたり、広げたりするのに話し合いや討議を大切にしている」、「自己評価するときには、自分の目標に照らして行っている」において有意差を認めた。これも、本学科のスタートアップセミナーの効果と考える。具体的には討議の前には、効果的なグループ学習の技法を学生に伝え、教員間で共通の教育目標を持ち、少人数制で学生をサポートしたことにより、学生同士が学び合い、助け合う機会を提供できたと考える。また、スタートアップセミナー共通内容「大学の基本理念や建学の精神」では、本学科は、大学理念や学科の教育目的・目標を教示する際、それらを4年間で達成するための具体的な行動目標を提示し説明している。学生にとっては4年間のアクションプランがイメージできる。看護職をめざす本学科の学生にとって「大学生活のライフプランとキャリアデザイン(大学の共通内容)」にも結び付く取り組みと考える。さらに学科独自の取り組み10)として、学生は各セメスター終了時に行動目標について形成評価(自己評価)をすることを課せられるため、自己目標を意識した自己評価の必要性は十分理解できていると考える。初年次教育のプログラムの特徴は、教育内容のみにあるのではなく、その前提として教育方法に特徴があると言われている。上述したように本学科のスタートアップセミナーにおける教育方法の工夫は入学後の学生が主体的に学び続けるためには重要な布石になっていると思われる。自己教育力3群間比較では、入学時の自己教育力得点が中群だった学生は「Ⅲ.学習の技能と基盤(p<0.022)」においてスタートアップセミナー後には有意に上昇していた。また低群の学生は「Ⅳ.自信・プライド・安定性(p<0.006)」において、自己教育力得点の有意な上昇を認めた。今回行ったスタートアップセミナーの内容は、中群・低群の学生の学習スキルや大学生活を送ることへの意欲を高めることに繋がったと言える。初年次教育の本来のねらいは、高校から大学への円滑な移行にある。したがって入学時の自己教育力得点が中群と低群の学生においては期待通りの成果が得られたと考える。本学科1期生(2006年度生)に行った自己教育力に関する先行研究11)において、自己教育力の総得点は入学時から入学1年後にかけて低下することが明らかになっているが、これは初年次教育が導入されていなかった時期の結果であった。今回の調査ではスタートアップセミナーの実施が自己教育力を高める糸口になる可能性が示唆された。5.2自己管理能力への効果自己管理能力総得点において、スタートアップセミナー前後で有意差は認めなかったが、項目別比較では、「2.難しいことをするときに、できないかもしれないと考えてしまう(p<0.034)」の1項目において有意差を認めた。大学という新しい環境の中で、初めて挑戦する課題に対して成功体験を持たない学生は、時間や健康、ストレスに対する自己管理スキルを学ぶことによって、困難なことに直面してもそれを乗り越えようとする意欲に繋がったことが推測される。一方、有意に低下した項目は、「8.しなくてはならないことよりも楽しいことを先にしてしまう(p<0.031)」、低下の傾向がみられた項目は、「6.作業しやすい環境を作ることが苦手だ(p<0.096)」であった。日常的に、優先順位や生活ペースを整えることが出来ない状況が推測され、実行できるようになるにはある程度の時間が必要と考える。さらに、総得点を高群・中群・低群の3群に分け、スタートアップセミナー前後の比較を行った結果、低群において有意な上昇(p<0.001)を認めたが、高群においては、有意な低下を認めた(p<0.027)。今回のスタートアップセミナー内容は低群においては効果的であるが、高群の学生に対しては効果が期待できなかったことを示している。これは、入学時にある程度自己管理能力が身についていても、新しい環境の中で健康生活をマネジメントしていくための困難性が推察された。本学科カリキュラムの特徴として、3年次秋学期より約1年間にわたる臨地実習がある。学内とは違い、「病院」という命を扱う環境の中で、毎日、新しい体験と多くの課題に取り組まなければならないため、自己管理能力の向上は重要な要件である。学生は受講後、自己管理能力の未熟さに気づき、身につけなければならないことも理解した。今後、機会あるごとに意識づけを行い、継続的に変化を確認していく必要がある。本稿では、教育において重要視されている自己教育力と自己管理能力の2側面から初年次教育の成果を分析してきた。本学科では、スタートアップセミナーの実施に向けて、学生への教育の質保証をするために、教員用手引きを作成した。それによって担当教員の恣―99―保健看護学科初年次教育の効果と課題

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