中部大学教育研究11
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1はじめに近年、大学全入時代に伴い、学習意欲や目的意識が低い学生の増加、大学生の学力低下などが指摘されている1)。このような状況の中で、高等学校から大学での学習への円滑な移行を図るために、新入生を対象に大学での学問のスキルや生活リズムの構築などを中心とした「初年次教育」が注目されている。2007年に全国すべての国立・私立大学を対象に行われた調査によると、97%の大学で初年次教育が導入されているという2)。本学においても初年次教育(以下、スタートアップセミナー)の重要性が叫ばれ、全学共通教育科目として2010年4月から導入された。保健看護学科においては、看護師・保健師など専門職を育成することを目的としていることから、学科創設以来「初年次教育」を重視し、大学での学習方法やレポートの書き方など春学期に開講される講義内で授業以外のプログラムとして取り入れてきた。今回、全学共通教育科目として位置づけられたことから、これまでの内容を系統的に整理し、初年次教育の目標を「学習スキル」、「健康生活」、「キャリアデザイン」の3本柱として春学期2単位で実施した。我が国における初年次教育に関する研究の歴史は浅く、2007年に第1回初年次教育学会が開催されて以降、初年次教育に関する研究が報告されるようになった。先行研究では、実践報告や高校時代の学力、大学志望動機、学生のニーズから教育方法を検討した研究が中心となっており3-5)、教育効果に関する研究はまだ十分に検討されていない現状にある。大学において学生が主体的・自律的に学びを深めていくには、主体的に学ぶ意思、態度などの「自己教育力」や自らの行動を統制し目的達成をめざす「自己管理能力」を高める必要があると考えられる。そこで今回、本学科のスタートアップセミナーの効果を検証するために、「自己教育力」、「自己管理能力」の2つの側面から調査し、初年次教育の今後の課題を検討することを目的とした。2研究目的平成22年度入学生に実施したスタートアップセミナーの効果と課題を自己教育力および自己管理力の側面から明らかにする。<用語の定義>「自己教育力」:主体的に学ぶ意思・態度・能力などをいい、学習への意欲、学習の仕方の習得、自己により自己を高め続ける意思や能力をいう6)。「自己管理能力」:目的達成をめざし、自らの行動を統制・努力する能力をいう7)。3研究方法3.1研究対象平成22年度保健看護学科に入学した1年生114名を対象とした。なお、受講したプログラムを資料1に示す。3.2調査方法無記名自記式調査表をスタートアップセミナー初回授業時(4月)と最終授業時(7月)に講義室にて配布し、参加が強制されることを避けるため回収箱を設けて回収した。3.3調査内容1)対象者の基本属性性別、年齢の他に、個人が特定されず同一学生の前後比較を行うために携帯電話の下4桁の番号および好きな動物について質問した。2)自己教育力尺度自己教育力の測定には、西村ら8)が作成した自己教育力測定尺度を用いた。この尺度は、「Ⅰ.成長・発展への志向」、「Ⅱ.自己の対象化と統制」、「Ⅲ.学習の技能と基盤」、「Ⅳ.自信・プライド・安定性」の4側面で構成されており、それぞれ10項目の下位項目からなっている。合計40項目からなる質問に対して、「とてもあてはまる:4」、「どちらかといえばあてはまる:3」、「どちらかといえばあてはまらない:2」、「まったくあてはまらない:1」の4件法で回答を求―95―中部大学教育研究№11(2011)95-101保健看護学科初年次教育の効果と課題-自己教育力および自己管理能力の側面から-山口直己・堀井直子・牧野典子・城憲秀・杉田豊子・足立はるゑ

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