GLOCAL_Vol20
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2022 Vol.202022 Vol.202022 Vol.207の活用も視野に入れている。学習者が作った成果物であるメニューを言語・非言語の両面から分析するとともに、学習者に対して実施する質問紙およびインタビュー調査の結果を吟味する。今後の課題 本調査に向けてパイロット調査を行い、授業の内容や時間配分、質問紙の内容等を見直す。得られたデータを分析することで、日本におけるTL教育のあり方を議論する。引用文献加納なおみ.(2016).「トランス・ランゲージングを考える―多言語使用の実態に根ざした教授法の確立のために」『母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究』12,1‒22.Garcia, O., & Li, W. (2014). Translanguaging: Language, bilingualism, and education. Palgrave Pivot.Li, W. (2018). Translanguaging as a practical theory of language. Applied Linguistics, 39(1), 9–30. https://doi.org/10.1093/applin/amx039はじめに 近年の外国語教育研究では、学習者の母語を含む言語・非言語リソースを最大限に活用するトランスランゲージング教育が北米やヨーロッパを中心に注目を集めている(e.g., Garcia & Li, 2014)。しかし、その具体的な教育方法はまだ十分に議論されていない。本研究では特に日本の教育環境に焦点をあてて、トランスランゲージング教育の意義とその具体的な指導のあり方を探究する。先行研究 トランスランゲージング(translanguaging、以下TL)はtrans-とlanguagingから成る造語である。“trans-”は「境界線を越えて」という意味である。“languaging”について、Li(2018)は「言語は『完成された事物、作られて完了したものとしてではなく、作られつつあるプロセスの中にあるもの』ととらえられるべきである」と主張している(p.242)。この2つの単語が組み合わさって作られたTLは、「マルチリンガルの自然な言語使用に根ざし、状況や場面に応じて彼らが全言語レパートリーから最適な要素を選び、言語の境界線を越えてそれらを組み合わせてタスクを遂行する」ことと定義されている(加納,2016,p.77)。 TL教育は、ある目的を達成するために学習者が既に有している言語や非言語を積極的に使用することで、コミュニケーションに取り組む態度を育成する指導法である。しかし、TL教育の実践に関して、その研究の蓄積はまだ浅い。特に、日本においてのTL教育はまだその在り方を見出せていない。 TLの具体的な授業案を検討するにあたり、本研究ではメニューに着目する。外国人がよく訪れる観光地で見かけるメニューには、(母語だけではない)複数の言語に加えて、絵や写真、フォントや色使いなどの非言語も効果的に使用されている。本研究がメニューに焦点をあてる理由は、TL教育の大きな目的である、学習者の持つ全ての言語・非言語リソースを最大限に活用することが可能になるからである。研究課題 本研究では「日本の教育環境において、学習者はTLの授業にどのように取り組むのか」を探索的に調査する。研究方法 研究者兼教師として著者自身が教室において50分の授業を行う。学習者には3~4人のグループに分かれてもらい、日本語でのみ書かれたメニューの情報(料理名、金額、注意書きなど)を配布し、(日本語話者だけでなく)外国語話者にもわかりやすく魅力的なメニューを作成してもらう。この活動は、個人が持つあらゆる言語・非言語リソースを最大限に活用する経験をさせることを目的としている。つまり、母語や英語以外の言語使用や、デザインや絵、図などの非言語リソース日本におけるトランスランゲージング教育言語・非言語を最大限に活用したメニュー作成活動を事例として国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年間地 悠子(MAJI Yuko)愛知県春日井市出身。中部大学春日丘高等学校卒業後、椙山女学園大学国際コミュニケーション学部国際言語コミュニケーション学科へ進学。4年次に1年間休学をし、フィリピンのセブ島へ1ヶ月、イギリスのロンドンへ6ヶ月語学留学。帰国後、中学校・高等学校教諭一種免許状(英語)を取得し卒業。今年度春、中部大学大学院国際人間学研究科言語文化専攻へ進学し、言語教育について研究している。

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