GLOCAL_Vol19
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2国際人間学研究科 言語文化専攻 助教王 昊凡(WANG Haofan)中国・北京生まれ、7歳時に来日。名古屋大学大学院環境学研究科博士課程単位取得満期退学、博士(社会学・名古屋大学)。日本学術振興会特別研究員、名古屋芸術大学芸術学部助手を経て、2020年より中部大学人文学部コミュニケーション学科助教に着任。2021年より国際人間学研究科言語文化専攻兼任。中国上海における寿司業の発展と寿司文化わち、資金・設備・労働力・を整備し、食材を仕入れ調理・接客を行う、という一連のプロセスである。これを安定化させなければ、店舗を持続させることは難しい――競争力がなくなるだけでなく、食中毒事故など危機的な状況さえもたらす。つまり、日本国外の寿司店が増加するためには、食提供プロセスを確立させなければならない。では、現地ではどのような食提供プロセスが、どのように確立された(もしくはされなかった)のか?フィールドワークでわかったこと 調査は2014年から18年にかけて、現地の寿司店(計314軒)中、256軒を訪問し、115軒でのヒアリング調査を行った。以下、得られた知見をかんたんに述べる。 現地には50軒の回転寿司店を除けば、高級店(2004年初登場、客単価300元以上、35軒)と一般店(客単価300元以下、229軒)がある。 高級店では、日本で修業を受けた寿司職人が料理長を務め、その部下が現地で雇用される。そこで解決すべきとされた問題は、食材と技能であった。食材の問題とは、現地の市場で仕入れる場合、生で食べられる魚介の種類が少なく品質が不安定で、一方で日本から空輸される食材は高価となる。高級店の料理長は、後者の食材を用いることで問題を解決し、そのために店の価格帯を上げることを選んだ。グローバル化とマクドナルド 社会学などの教科書でグローバル化を概説するとき、マクドナルドを例示することが多い。そこでは、G.リッツァの『マクドナルド化する社会』や、それに続く一連の研究を参照し、世界中にチェーン組織を展開するグローバル企業が増加し、結果として食文化の世界規模での均質化が進む、という議論がなされる。 しかし、食文化のグローバル化とはグローバル企業が担い手であり、結果として均質化が進むものだと断定するのは尚早である。近年の研究で、飲食業は「中小零細企業を中心とする国際化現象である」(川端2016:12)と指摘され、またリッツァ自身も「寿司レストランを開いているのは個人事業主であり、その経営方法もそれぞれ独自」(リッツァ2004:74)と、マクドナルド化とは異なるグローバル化のありかたがある、と示唆する。マクドナルドをはじめとするチェーン組織による飲食店を、チェーン型、中小零細規模で各自が独自に店舗運営をする飲食店を在来型と名付けるならば、在来型による食文化のグローバル化は、いかにして可能なのだろうか? この問いにアプローチするため、日本国外の寿司店がどのように増加し得たか、中国上海をフィールドに調査を行った。日本国外の寿司店は約5万軒あると推計されており、これは日本国内の約2倍である。そこでは多種多様な寿司――写真で例示したのはフォアグラの握りとスモークサーモンマンゴーロール、いずれも筆者撮影――が提供されており、ここでみられる多様化という現象を、リッツァの議論で説明するのは、なかなか難しい。現場で食提供プロセスを問う 飲食店の分析をするにあたって、店舗運営の全体を概観するための概念として、食提供プロセスなる用語を作成した(図1)。すな 商品  サービス仕入れ    調理    接客資金食材食提供プロセス出資者仕入先消費者料理人店舗管理労働市場図1 食提供プロセス概念図

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