GLOCAL Vol.18
5/20

2021 Vol.182021 Vol.183ゲートウェイで説明できる 新大陸の都市立地 話を『ゲートウェイの地理学』に戻すと,交通立地タイプの都市は,昔から中継機能を果たしてきた。古くは長距離交易や街道の中継地であり,近代以降は国際貿易港,鉄道の主要駅,国際空港などがこれに加わるようになる。ゲートウェイを幅広く考えれば,昔の関所や宿場の出入口など人の出入りを管理・調整する場所も,これに含まれる。現代では高速道路のインターチェンジ,内陸部のインランドポートもこれに含まれる。インランドポートとは,混み合う港湾を避け,内陸の工業地域で通関機能を果たす場所のことである。このように,古今東西,モノや人の集中と分散に関わる機能を果たす場所はゲートウェイという概念で整理できる。貨物や旅行者は港湾,駅,空港に集まり(集中),移動後の目的地で分散する。つまり集中・分散が,ゲートウェイの空間的特徴である。 筆者は,長年,カナダ,オーストラリアの都市研究や港湾研究にも携わってきた。中心地タイプの都市が歴史的に形成されてきた旧大陸とは異なり,新大陸では港湾から上陸した移民によって国がつくられてきた。当初は宗主国からの輸入物資に依存し,開拓地へ向け中継地を介して送られていった。開拓後は,内陸地から港湾へ生産物や資源が輸送され送り出されていった。州都がすべて港湾都市のオーストラリアが典型的に示すように,新大陸の主要都市はゲートウェイすなわち交通立地タイプに近い。むろん国土の発展とともに,農業地域にモノやサービスを供給する中心地タイプ,製造業の発展とともに工業立地タイプも生まれていく。実際には,3タイプを組み合わせた複合型として都市は形成される。新旧大陸の都市比較の重要な手がかりとしてゲートウェイ概念が有効であることを,拙著では言いたかったのである。にあって中心的機能を担ってきた都市とは別に,長距離交易を担うことで,より広い地域に影響を及ぼす都市が生まれてきた。多少のリスクを犯しても,希少な産物を遠路運んで売り捌けば大きな利益が見込まれる。そのために海沿いに港を設け,船を建造して交易相手先へ出掛けていく。海だけでなく,場合によっては川や湖にも港が生まれ,港を拠点として集落や都市が形成されていった。港は出発地と到着地だけでなく,途中にも生まれた。初期の頃は,一度の航続距離が限られていたため,途中の寄港地に立ち寄らなければ交易できなかったからである。途中の中継地は海上交易だけでなく陸上交易でも生まれた。シルクロードの場合,東の交易拠点は長安で,途中に敦煌,タシケント,サマルカンド,ブハラなどの中継地があった。産業革命で生まれた工業立地都市 中心地タイプ,交通立地タイプとも違う工業(資源)立地タイプの都市は,歴史的には産業革命以降に登場してきた。中世までの農業社会にあっても,麻,生糸,綿花,羊毛などを原料として衣服をつくったり,金属,木材,陶土などの原料を加工して日用品を生産したりすることはあった。水車や人の力を使って糸を紡いだり,穀類や石を砕いて粉にしたりすることもあった。しかし蒸気機関が発明され,それを動力源とする文字通り革命的進歩が製造や移動の分野で生じた。石炭や鉄鉱石を大量に用い,産業や生活に必要な生産用具や生活用品が生み出された。こうした製品の生産には天然資源と労働力を必要とする。むろんそれらを組み合わせて生産するために,資金を投じて工場や機械を揃えなければならない。イギリスで始まった産業革命は,やがてヨーロッパ大陸や新大陸,アジア・アフリカへと広がっていった。 歴史学や経済学なら,産業革命の基本的理解はこれでこと足りるかもしれない。しかし空間にこだわる地理学は,産業革命後の生産活動がどのような場所に立地し,またその後,空間的にどのように変化していったかを問う。詳しい説明は省略するが,基本的には,資源,労働力,輸送費をキーワードとし,生産立地を説明しようとする。経済の原則にしたがえば,地表上の希少資源をいかに効率的に活用して効用を生み出すかが,経済活動の目的である。利益の最大化は企業家の望みであり,市場での販売価格が同じなら,できるだけ安価に生産して大きな利益を得ようとする。工場までの資源輸送費,工場から市場までの製品輸送費,それに生産費の合計が最小になる場所が最適地である。しかしこれは労働費がどこも同じという前提に立っているため,かりに安価な労働力が得られるならその影響を受けて最適地は変わる。概略,このような論理の組み立てで生産地が決まると考えたのが,初期の工業立地論であった。三角グラフによる 都市立地タイプの説明 これまで述べてきた都市立地の3つのタイプは,いずれも純粋型あるいは理念型の都市である。実際は,海岸の背後に農村が広がっていれば,中心地立地の都市は,時間とともに交易活動も担うようになっていくかもしれない。似たことは街道の中継地についてもいえる。やはり周辺に農業地域が広がっていれば,遠方から運ばれてきた産物をその場で販売することもあったであろう。いずれも中心地的な小売・サービスと交通の2つの機能を兼ねるため,下図の小売・交通都市に相当する。 この図は,三角グラフを用いて3つの立地タイプがどのように組み合わさっているかを示す。純粋型,理念型は三角形の頂点(●)に位置し,2つのタイプの折衷型は辺の中点(○,◎,◉)に位置する。時代が進んで工業活動が盛んになると,小売・サービスと交通のほかに,工業も組み合わさった都市へと近づいていく。世界の大都市は3つのタイプを合わせたものが多く,これは三角グラフでは中心に位置づけられる。図 三角グラフによる都市立地タイプの説明

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る