GLOCAL_Vol17
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8プロテウス効果に資するアバターおよびVR技術を用いた性格創成―自己表現の拡張および行動パターンの学習支援を目指して―国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年佐藤 雅也(SATO Masaya)1997年、愛知県江南市出身。中部大学人文学部コミュニケーション学科を卒業。同年、国際人間学研究科に進学。卒業研究では「オントロジーを用いた地域情報へのアクセス手法の研究」という題目で、地域特有語彙を標準規格の語彙と同定するためのシステム構築を行った。sことから、事前にアバターに沿った行動を学習させることによるステレオタイプの強化によってプロテウス効果が強化されるかの実験も行う。さらに、VR空間内でのオブジェクトとの衝突と現実への感触を同期させることで「ラバーハンド錯覚」を起こし、身体所有感の発生がプロテウス効果に影響を与えるかを実験する予定である。ラバーハンド錯覚とは、本物の手を直接視認できない状態にし、偽物の手と本物の手に同時に刺激を与え続けることによって、偽物の手に対して身体所有感が発生する現象である(Ehrsson & Spence : 2004)。 おわりに 最終的には、VR空間内で利用者が持つ「外見に対するステレオタイプ的思い込み」を利用して、自己表現の拡張と理想的な行動パターンを獲得するための、プロテウス効果を応用した学習支援ツールの構築を目指す。参考文献小柳陽光 ほか(2020).ドラゴンアバタを用いたプロテウス効果の生起による高所に対する恐怖の抑制.『日本バーチャルリアリティ学会論文誌』25(1), 2-11.Blumstein G, et al(2020). Randomized Trial of a Virtual Reality Tool to Teach Surgical Technique for Tibial Shaft Fracture Intramedullary Nailing. Journal of Surgical Education, 77 (4) , 969-977.Ehrsson, H.Henrik & Charles Spence (2004). That's My Hand! Activity in Premotor Cortex Reflects Feeling of Ownership of a Limb. Science, 305(5685), 875-877.Yee, Nick & Jeremy Bailenson(2007). The Proteus Effect: The Effect of Transformed Self - Representation on Behavior. Human Communication Research, 33 (3) , 271-290.はじめに 近年ではヴァーチャル・リアリティ(以下VR)技術の発展により容易にVRコンテンツに触れることが可能になった。VRを用いたコンテンツの中には、本来の自分とは異なる外見のアバターになり他ユーザーと様々な交流をするといったものも存在する。その際、自分とは異なる外見に立ち居振る舞いが影響されるという意見がSNS上に散見された。 もし、VR空間内での外見が立ち居振る舞いに影響するならば、、VR空間内で設定される年齢や性別、人種、社会的地位などが自己表現の上での障害の排除に寄与する可能性がある。たとえば、内気な性格なため思ったことを言い出せないといった、内面的特徴によって思うような振る舞いができないという問題の解決に繋がるのではないだろうか。 本研究では、自己表現の拡張および行動パターンの学習支援を目的に、アバターおよびVR技術を用いた性格創成を目指す。 先行研究 VR心理学の分野における研究では、ユーザーの動きをアバターに反映させたとき、アバター自体を自身の身体のように認知する「身体所有感の転移現象」が報告されている。また、アバターの視覚的特徴や特性のステレオタイプに基づいて心理的状態・態度に影響を及ぼすことが示唆されている。このような効果はプロテウス効果と呼ばれている(Yee & Bailenson : 2007)。 たとえば、小柳ほか(2020)では、身体所有感の転移によるプロテウス効果として、VR技術とドラゴンアバターを用いることで(ヒトアバターの場合と比較して)高所に対する態度及び恐怖、落下に対する不安、自身の頑強さに関して、抑制・改善することが可能であることを実証している。 また、VRを用いた訓練についても研究が進んでいる。医療分野ではVRを用いた訓練は従来の訓練と比較した場合、正確性や効率性でまさることが示されている(Blumsteinほか : 2020)。研究方法 本研究では、こうした先行研究を踏まえ、VR技術とアバターによる外見的「変身」により、アバター利用者の行動がどのように変化すか実験を行い、仮想的な外見であっても行動パターンが変化するのか観察を行う。また、アバターの視覚的特徴や特性のステレオタイプに基づいて心理的状態・態度に影響を及ぼすことが示唆されている(Yee & Bailenson : 2007)図1. ドラゴンアバタとヒトアバタ出典:小柳ほか2020, p.5図1より

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