GLOCAL vol.12
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2018 Vol.122018 Vol.122018 Vol.122018 Vol.125のことである。しかし、これまでの多くの研究では学年が上がるにつれて内発的動機づけが低下することが明らかにされている。だが、直接、児童・生徒に動機づけを問う質問紙の結果によるのでなく、大学生にこれまでのそれぞれの学校段階の学習場面で各動機づけがどのような割合で働いていたかを、いわば俯瞰的に自らを相対化して評定させたところ、異なる結果を得た。すなわち、小学生では外的動機づけと内発的動機づけで4分の3以上を占めるが中学・高校になるとこれらが減少し、取入れ的動機づけと同一化的動機づけの占める割合が増大し、大学生では外的動機づけは全体の15%ほどになる。つまり、小学生ではやりたいこととやりたくないことに二分されていたが、発達につれてあまりやりたくなくても自らやろうとすることが増えてくるといえる。これは広い意味で社会化の過程に他ならない。また、動機づけの自己調整方略の使用頻度に関しても調査したところ同一化的動機づけと最も関係が深いことが明らかになった。楽しいからでなく、重要だから勉強しようとするときにこそ、人は努力する技法を駆使して頑張るのだろう。内発的動機づけはすべからく個性化の問題として位置づけるべきであるように思われる。学校教育には大方定められた教育内容があり、すべての内容を児童生徒全員に興味・関心を持たせるのは無理があろう。興味・関心とは本来領域特殊的なものだからである。社会化の理論としての自己決定理論では自律性の端は同一化的動機づけ、あるいは統合的動機づけとして、内発的動機づけはその次元とは別の動機づけの個性化を図るものとして、さらには自律的動機づけを形成する刺激する際の触媒的なものとしての位置づけが妥当であるように思われる。して3群の同一化的動機づけ、取入れ的動機づけ、外的動機づけの平均値をみた。その結果、どの発達段階でも一致して内面化中・後の群の外的動機づけはかなり低い値を示すのに対して内面化前のいわば疑似内発的動機づけにあたる群の外的動機づけはかなり高い値を示した。これは、おもしろい環境が他者により提供されれば勉強するが、そうでなければ自律的には勉強しようとしない、筆者が指摘した疑似内発的動機づけをもつ一群が明らかに存在することを示唆するものである。動機づけを規定するもの、  動機づけに規定されるもの 自己決定理論では自己決定感、有能感、関係性という3つの基本的心理的欲求が満たされることで価値の内面化が促進され、自律的動機づけが高まり、また、ウェルビーイングが高まるとしている。ただし、その関係を統一的に検証しようとした研究はあまりない。そこで3つの基本的心理的欲求も質問紙で測定して関係をみることにした。しかし、関係性についてはここでは学業についてのソーシャルサポートと社交性の高さを測ることで代替した。各学校段階ごとにそれぞれの動機づけを基準変数、自己決定感、有能感、ソーシャルサポート、社交性を説明変数として重回帰分析を行った。 有意なパスがみられたところに注目するとまず、自律内発的動機づけでは自己決定感からは小学生と大学生で、有能感は全学校段階で、ソーシャルサポートは小学生と中学生で認められた。他律内発的動機づけに関しては自己決定感からは負のパスが中学生と高校生で見られた。有能感は全学年から、社交性は中学生と高校生で、ソーシャルサポートは小学生、中学生、大学生で見られた。同一化的動機づけに関しては自己決定感から高校生、大学生で有意なパスがみられ、有能感からは小学生、中学生、高校生で、またソーシャルサポートについては4つのすべての学校段階で有意なパスが認められた。取入れ的動機づけに関しては有能感からのみ全学校段階から有意なパスがみられた。最後に外的動機づけについては自己決定感からは小学生と大学生で他律内発的動機づけの場合のように負の有意なパスがみられた。さらに小学生で社交性からは正の、ソーシャルサポートからは負の有意なパスが認められた。これらを総合すると有能感が動機づけを規定する要因として最も広く強く働いているといえる。自律性が比較的弱い取入れ的動機づけでさえも有能感に支えられて生じている。次に影響力がありそうなのは関係性のなかのソーシャルサポートであろう。特に同一化的動機づけでは他者からのソーシャルサポートが重要な役割を果たしている。一方、意外と機能していないと思われるのは自己決定感である。動機づけそのものが理論的にはその順に位置づけられているはずであるが、自律内発的動機づけですら有意なパスがみられたのは2つの学校段階のみであった。一方、これらの動機づけが規定するものとしてここでは認知的なものとしてメタ認知方略を、行動的なものとしてGRIT(粘り強さ)をとり、その2つを基準変数、動機づけおよび基本的心理的欲求を説明変数とした重回帰分析を行った。その結果、メタ認知方略に関しては自律内発的動機づけからは全ての学校段階で有意なパスが、同一化的動機づけからは小・中・高校生で有意なパスが、また、取入れ的動機づけからは高・大学生で有意なパスがみられた。外的動機づけからは大学生で負の有意なパスが示された。他方、GRITについては自律内発的動機づけからは小学生と高校生で有意なパスが、同一化的動機づけでは中・高・大学生で有意なパス、取入れ的動機づけからは小学生で、また、外的動機づけについては小学生と中学生では負の有意なパスが認められた。このように自律的動機づけは後続変数に影響を与えることが明らかにされたが、自律内発的動機づけはどちらかといえばより認知的側面に、同一化的動機づけは行動的側面に影響しているといえる。しかし、問題の他律内発的動機づけはどちらの後続変数にも全く影響しておらず注目に値する。社会化としての自律的動機づけ 自己決定理論では価値を自分の中に取り込んで自らの行動をコントロールあるいは調整することで自律的動機づけが形成されるとしている。そして、自律的動機づけとはここでいう自律内発的動機づけと同一化的動機づけ

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