GLOCAL vol.12
6/20

4内発的動機づけと自律的動機づけ―自己決定理論再考―低くなることが示された。また、他の動機づけとの関係として最も近似した動機づけは自律内発的動機づけであり、外的動機づけとも有意な正の相関がみられた。明らかに他律的なものではありながら相関の上では内発的動機づけと同一化的動機づけの間に位置づけられるのは奇妙である。なぜなら、ライアンらは自律性、自己決定性の程度の順にそれぞれの動機づけが並ぶと考えたからである。そしてまた、自律内発動機づけに最も近い位置にありながら、外的動機づけとも正の有意な関係がみられることは同一化的動機づけが外的動機づけと有意な関係にないことを考えると矛盾する。他律内発的動機づけは有機的統合理論の枠外の動機づけと考えられる。次に教育者たちは他律内発的動機づけによって生徒の内部に自律内発的動機づけが生成されること、学習はおもしろいという価値が内面化されることを期待しているが、果たしてそうか。そこで次に他律内発的動機づけは高いが、自律内発的動機づけは高まらないといういわゆる疑似内発的動機づけが存在するのではないかということを探るための分析をした。そのために他律的動機づけの内面化の段階を次のように操作的に3つの段階に分けることにした。①内面化前:他律内発的動機づけが平均以上かつ自律内発的動機づけが平均以下、②内面化中:他律内発的動機づけ平均以上かつ自律的内発的動機づけが平均以上、③内面化後:他律内発的動機づけが平均以下かつ自律内発的動機づけが平均以上。なお平均値は学校段階ごとに異なっている。そ自己決定理論をめぐって 1998年、金子書房より「自己形成の心理―自律的動機づけ―」を著したが、それは主にライアンらが提唱した動機づけの自己決定理論を紹介しようとしたものであった。自己決定理論の中核は有機的統合理論といわれるもので、それまでの内発的動機づけ対外発的動機づけといった動機づけの二律背反的な見方に対して、外発的動機づけの中にも自己決定性の程度の異なるいくつかの種類(統合、同一化、取入れ、外的動機づけ)があることを指摘した斬新な視点を含んでいた。ただ、この理論でも自己決定性の頂点には内発的動機づけが位置づけられ、指導という観点からはこれまでと同様、それぞれの外発的動機づけを云々するというより直接内発的動機づけを高めることに主眼が置かれている。従って、教師たちはとにかく授業をおもしろくしようと奔走するが、そのような働きかけだけを優先すると、自ら勉強のおもしろさに気づくまでに至らず、「周りが設定してくれる場がおもしろければ勉強するが、おもしろくなければ勉強しない」というようなマイナスの疑似内発的動機づけをもたらすように思われた。この問題は教育者の他律的働きかけによって生徒側に自律性を形成させようとする際に生じる教育という営みが本来もつパラドックスでもある。この著書を出版した後、教育雑誌などにもこの疑似内発的動機づけを自己決定理論のどこに位置づけるべきかについて何度か触れてきた。しかし、それを実証する研究はこれまで全く実施してこなかった。第二の職場での定年も近づき、20年の時を経て、残されたままになっていたこの問題を解決しておきたいと考え始めた。ここで報告する研究はその答を求めようとするものだが、この際、それだけでなく、自己決定理論の全体的枠組みについても検討し、自己決定理論を再考することにした。他律内発的動機づけの位置付け 上記のような目的で小学生6年生、中学2年生、高校1、2、3年生、大学1、2、3、4年生合わせて1300名以上を対象にして質問紙調査を行った。動機づけ尺度は自律内発、他律内発、同一化、取入れ、外的動機づけの5つの下位尺度から構成されていた。ここで他律内発とは他者から喚起された内発的動機づけで自作の項目からなる。例えば、なぜ勉強するかの理由として、先生の教え方が楽しいから、ゲーム感覚でできる授業だから、先生が授業で退屈しないようにしてくれるから、などから構成される。また、自律内発というのは従来からのいわゆる内発的動機づけのことである。さらに動機づけを規定する先行変数として基本的心理的欲求尺度(自己決定感、有能感、関係性を見るものとしてソーシャルサポート、社交性)、動機づけの後続変数としてのメタ認知方略尺度、GRIT尺度も実施した。まず、他律内発的動機づけ尺度は一定のまとまりをもち、低学年ほど高く、高学年では国際人間学研究科 心理学専攻 教授速水敏彦(HAYAMIZU Toshihiko)名古屋大学大学院教育学研究科博士課程修了。教育学博士。専門分野は教育心理学・青年心理学。主に、中学生や高校生の情動の変化および学習の動機づけ理論について研究している。

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る