GLOCAL vol.12
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2国際人間学研究科 国際関係学専攻 准教授加々美 康彦(KAGAMI Yasuhiko)関西大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(国際関係学)。専門分野は、国際法、海洋政策。人間が海に引く政治的な「境界線」による海洋の管理は、海洋生物多様性の保全と持続可能な利用を可能にするかというのが大学院時代からの主な研究関心。2017年9月、本研究科で(論文)博士号を取得。テーマは『国連海洋法条約第121条と海洋保護区 - もう一つの「島の制度」の探究』。島か岩か-南シナ海仲裁裁定による判断とその影響誰が何人住めば居住か。政府が派遣する1名又は数名の軍人や公務員が、外部支援に完全に依存して生活しても、居住といえるのか。 ③「独自の経済的生活」とは何を意味するのか。そもそも「独自」とは、陸上の経済活動に限るのか、周辺海域での漁業でもよいのか。遠隔地ゆえに政府補助金に依存しなければ継続できない収益の期待されない活動であっても「経済的」といえるのか。 ④ 3項の「又は」は、文言上は「人間の居住」か「独自の経済的生活」かの二者択一を意味する。ただし、条文の起草過程では、「居住」は「独自の経済的生活」の前提なので、「及び」に変更すべきとの案も出されたが、最終的に採用されなかった経緯がある。 ⑤ 「維持することのできない」とは、どう解すべきか。「できない(can not)」とは、今そうある必要はなく、あくまで可能性を指すのであって、科学技術力があれば、また資金を惜しまなければ、たいていの陸地において、少なくとも将来的には維持できる可能性を証明できるのではないか。 本条は、このように多様な解釈を許すことから「混乱と衝突を生み出す完璧なレシピ」とも呼ばれる。(グレー444な島を持つ)諸国の思惑が絡み合って、条文は意図的に玉虫色のまま起草され、その内容の明確化は、後の国家実行と国際裁判へと委ねられたのである。南シナ海仲裁事件 ところが、「混乱と衝突のレシピ」は、国莫大な持参金を持つ花嫁 国連海洋法条約(以下、条約)は、世界167カ国と欧州連合が批准(2017年末現在)する普遍的条約であり、「海の憲法」とも呼ばれる。その扱う範囲は極めて広く、本文計320カ条と9本の附属書は、領海の幅の測定方法から深海鉱物資源の国際的な管理まで、(濃淡はあるが)周到な規則を定めている。 この条約が一般に知られているとすれば、それは排他的経済水域(以下、EEZ)の設定を認める条約としてであろう。この条約に基づき、沿岸国は、海岸から200海里(1海里は1,852mなので約370km)の範囲でEEZを設定することができる。南北に散らばる島嶼で構成されるわが国は、特に太平洋側では効率的にEEZを設定できる。その面積は約447万km2(世界第6位)、これは国土面積(約38万km2、世界第61位)の約12倍に相当する。 EEZにおいて沿岸国は、排他的に、つまり他国を排除して、経済活動を進めることができる。それゆえ、この条約の起草に携わったある著名な学者は、EEZを(沿岸国にとり)「莫大な持参金を持つ花嫁」と呼んだ。混乱と衝突を生み出す完璧なレシピ しかし、わが国のような島嶼国がその花嫁を迎えるためには、一定の条件をクリアしなければならない。とても重要なので、ここで関係する条文を、全文引用しておく:国連海洋法条約 第121条「島の制度」1.島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。2.3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。3.人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。 これらの条件をクリアした「島」だけがEEZを主張できる基点となるのだが、この条文、特に3項の解釈は、長らく論争の的になってきた。その主な論点は以下の通りである: ① 1項と3項の関係は、どう捉えれば良いのか。1項は島を定義し、2項はその島が他の陸地領土と同様にEEZを有すると定める。3項は、島ではなく岩に言及している。そこで、1項を満たす島なら3項は無関係となり、EEZを主張できると解せるのか(日本政府はこの立場。他国も、明言しないが実行はこれに近い。便宜的に「分離説」と呼ぶ)。あるいは、1項を満たしかつ3項(居住や経済活動ができるなど)も満たして初めてEEZを主張できると解すべきか(2012年国際司法裁判所(以下、ICJ)判決や、学説上はこれが多数派と思われる。便宜的に「結合説」と呼ぶ)。 ②「人間の居住」とは何を意味するのか。

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