GLOCAL Vol.11
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2017 Vol.112017 Vol.112017 Vol.112017 Vol.113 よって、このモデルでは縦軸にcommunicative capability を取る。母語話者の言語能力を基準とするproficiency やcompetence ではない点に注目したい。横軸には、social varieties とregional varietiesを置いている。3次元の円錐形であるが、これは地域的・社会的な偏りが高い英語を使っての国際的汎用性(intelligibility)を考慮している。中心軸に近いほど、この汎用性(国際的通用性)が高いということになる。現実的には標準的な学習者はMy best possible English speakerになることを目指すことを念頭に入れている。しかし、高度な論文やビジネス文書などを書くような非常に高いレベルの英語使用者を目指す学習者も考慮し、My Ideal Englishを頂点に置いている。 学習者や教育者はこのモデルを念頭に置くことにより世界の英語使用の実態に合わせた現実的な英語学習・教育ができるのではないだろうか。もとよりこのモデルが複雑な言語習得プロセスを説明するものではないが、英語学習のプロセスを「My Englishの確立過程」という側面からとらえたという意味で、特別な意義があると考えている。参考文献塩澤正他(2016)『「国際英語論」で変わる日本の英語教育』東京:くろしお出版Kachru. B.(1982). The Other Tongue. Urbana-Champaign: University of Illinois Press.Kachru. B.(1985). Standards, conditions, and socio-linguistic realism: The English language in the other circle in Quark and Widdowson(eds). English in the World. Cambridge: CPU, pp. 11-36. Widdowson, H.(2003). Defining Issues in English Language Teaching. Oxford: OUP.場合は、ミッションステイトメントとは裏腹に、予算的に削るべきものの筆頭として掲げられる。形式的な国際理解や国際交流に終始している日本の多くの大学と、身近にある重要問題として真剣に取り組み、多様性を重んじ、国際的な発想と行動ができるような学生を本気で育てようとしているアメリカの大学との温度差を実感した。World Englishes とは World Englishes(「国際英語論」)という考え方は、世界の多様な英語(インド英語やフィリピン英語等)をブロークン英語やピジン英語としてではなく、英語の一つのバラエティーと認知し、正当な扱いをすべきであるとB. Kachru(1982)らが主張したところから始まる。多様性を認識・尊重し合い、理解のために互いに歩み寄るという意味で、International Education Weekと同じ発想が根底にある。インド英語やフィリピン英語を英米の英語と同列に並べることに抵抗があること人は多いだろうが、アメリカ英語でさえも18世紀後半にウェブスターが登場するまでは、耐えがたい亜種であるとみられていた。現在は実質的に世界共通語となってしまった英語という言語が、世界的な規模で変容を迫られているという現実がある。数百年かけて徐々に現代の形に変容した英語だが、世界の様々な言語や文化に触れて、それがかってない速度と世界的な規模で変化しているのである。最近では、英語学習者の英語も(日本人の英語も)多様な英語の一つと考え尊重し、堂々と使用する権利があると主張する研究者もいる。いや、アイデンティティなどを考えると、英語母語話者に合わせた話し方をする方がおかしいという主張さえある(塩澤 2016)。国際英語論の教育的意義 国際英語論の考え方をもとに英語を学ぶ意義は大きい。最も大きな意義を3つ紹介する。その一つ目は、国際英語論は学習者に到達不可能な目標を要求しないことである。もともとネイティブスピーカと同じような発音や語彙能力を求めることは不可能である。ところが、その到底たどり着かないことを学習者に要求し、英語に対する不安や劣等感を与え続けていたのが母語話者の英語を唯一のモデルとする今までの英語教育であった。 二つ目の意義は、学習者を母語話者のように話さなければならないという「呪縛」や不安から解放することにより、学習者のアウトプットやインタラアクション量を増やすことが可能になった点である。もともと母語話者のように話し、書く必要がないなら、言語習得で最も重要な要素の一つであるアウトプットやインターアクションが可能になる。 評価基準も再検討を余儀なくされている。言語能力は基本的に正確さ、流暢さ、複雑さの3つの観点から評価されるが、教育現場では今までは正確さのみが評価されてきた。今後は、流暢さや豊かな表現(複雑さ)を評価に入れる必要が出てくるであろう。減点法ではなく、加点法での評価が必要となる。“My English”学習者モデル 最後に国際英語論の考え方を反映した英語学習モデルを提案したい。母語話者の英語を目指す中間言語モデルやKachruの英語の使用地域を元にした三円モデル(1985)と大きく異なる点は、学習者の視点から国際英語論を捉えた点である。 このモデルでは、最終到達目標は国際的なコミュニケーションの場で非母語話者として、「自分が理想とする英語話者(My ideal English speaker)になることである。下から、My Current English, My Better English, My Best Possible English, My Ideal Englishと4層になっているが、この区切りは特にはっきりあるわけではない。目標は自分が理想とする英語話者になることであるから、学習者個人によって異なってよい。共通する目標があるとすれば、国際的に汎用性が高く、communicative capability(Widowson, 2003)が高い英語使用者を目指すことである。

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