GLOCAL Vol.10
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2国際人間学研究科 国際関係学専攻教授青木澄夫(AOKI Sumio)1974年に富山大学文理学部文学科国史学専攻を卒業。民間会社、ナイロビ日本人学校・ダルエスサラーム日本語補習校現地採用助教諭等を経て、1980年に国際協力事業団(現在の国際協力機構 JICA)に入団。2004年にタンザニア事務所長を最後に、本学に着任。著書は『放浪の作家安藤盛と「からゆきさん」』、『日本人のアフリカ「発見」』、『アフリカに渡った日本人』と、近刊の『日本人が見た100年前のインドネシア 日本人社会と写真絵葉書』。解説に復刊『南洋年鑑 全4巻』、共著に『シンガポール日本人社会100年史』など。「南」の国に眼を向けた先駆的愛知県人たちとりわけ、私たちが居住する愛知県では、製造業、非製造業を問わず、成長著しい「南」の国々に、大小問わず、多数の企業が事業を展開している。 俗に、愛知県人は保守的で、他の地域への関心は薄いと言われてきた。しかし、日本と東南アジア、南アジア、アフリカとの関係を見るとき、愛知県人の果たしてきた役割は、決して小さくない。 本企画展では、日本と東南アジア、南アジア、アフリカの関係・交流史を概観しながら、明治以降、同地域と関わった先駆的愛知県人の足跡を、申請者の所有する資料とパネルで紹介する。 1901年から6年半余にわたり、五大陸を放浪し、帰国後当時の売れっ子冒険作家の押川春浪と5冊の『五大洲探険記』を著した中村直吉(1865~1932)は、愛知県豊橋市の出身である。帽子店主だった中村は生涯に8冊の書籍を刊行したが、その内容は信ぴょう性がないものと無視されてきた。 しかし、各地に散在した「無告」の日本人の様子を知るうえで、その人数と言い、広範囲な地域と言い、中村の著作に勝るものはない。 松坂屋の中興の祖として知られる伊藤次郎左衛門祐民(1878~1940)は、近代的デパート経営の傍ら、上坂冬子の『揚輝荘、アジアに開いた窓 - 選ばれた留学生の館』で見るように、アジアの学生の受け入れに積極はじめに 本年3月を以て中部大学を去る私にとって、心残りは2月から3月にかけて予定していた企画展「『南』の国に眼を向けた先駆的愛知県人たち」を開催できなくなったことだ。 私がサラ―リマン時代に刊行した『アフリカに渡った日本人』の主人公の一人で、日本人初のアフリカ旅行記を書いたのは、豊橋市出身の中村直吉だった。 本学に着任して、日本とアフリカ・東南アジアの関係・交流史を研究する際には、常に愛知県人を含む「グローカルな東海人」の存在が頭にあった。 10年ほど前の『アリーナ』に、「明治時代の愛知県人とシンガポール 『南』の国を旅した世界無銭旅行家中村直吉と同世代人」や「昭和前半期における名古屋経済人のアフリカへの関心」を執筆したのも、この地域と世界を繋いだ人々への思いからだった。 それ以降も文献・資料の収集を継続していたが、まとまった形での発表はなく、心にモヤモヤが生じていた。そのため、昨年2月に民族資料博物館に本展開催の企画書を提出し、内諾をいただいていた。 しかし、私の「卒論」のひとつである、『日本人が見た100年前のインドネシア 日本人社会と写真絵葉書』が、インドネシアで2月に刊行されることになった。同書は、私が研究してきた、第二次世界大戦以前にインドネシアで日本人が関わって作成・販売された写真絵葉書を基に、100年前の日本人社会を紹介するものだ。 2018年に、国交60周年を迎える日本とインドネシアだが、日本人のインドネシアへの関心は経済に傾き、インドネシア人の日本人観には、いまだに第二世界大戦の影響が残る。私は、本書を特に日本とインドネシアの若い人たちに読んでもらいたいと考えていた。 そのため、中部大学の学生たちが研修でお世話になり、インドネシアの日本語教育では最も定評のあるパジャジャラン大学の友人(写真上)に翻訳を依頼し、日本語とインドネシア語の併記で、ジャカルタの邦字紙であるじゃかるた新聞社から本書は刊行されることになった。 一方、協力・翻訳者であるパジャジャラン大学日本語研究センターからは、本書の刊行に合わせ、1955年に非同盟、中立を謳って開催されたバンドン会議の会場(現在はアジア・アフリカ会議博物館)で、「日本人が残した写真絵葉書に見る100年前のインドネシア」展を、開催しないかという提案があった。 当初は3月の開催予定だったので、書籍の刊行と企画展の準備で、日本に不在となることが想定された。そのため、遺憾ながら本学での企画展を断念せざるを得なくなった。 企画書は以下のとおりだった。『南』の国に眼を向けた先駆的愛知県人たち中村直吉、伊藤次郎左衛門祐民、志賀重昂、徳川義親、橘瑞超、金子光晴などを中心に 近年、日本企業の海外進出が際立っている。

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