GLOCAL Vol.10
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2017 Vol.102017 Vol.109セス進行に影響を与えていることがわかった。なお、図1(左)は統計ソフトによる分析直後の結果であり、このままではわかりにくいパス図も、(右)図のように整理してパス図を描き直すことで諸要因の関連性が見やすくなった。今後の展望 精神障害者の怒りの体験、及び精神科看護師の怒りの反応プロセスを中心に簡略的ではあるが述べてきた。今後、精神科看護師が怒りを感じた時に選択する方法に関する調査を行うなど、さらに研究を発展させたい。参考・引用文献武井麻子(2006):ひと相手の仕事はなぜ疲れるのか、大和書房湯川進太郎(2005):バイオレンス-攻撃と怒りの臨床心理学―、北大路書房海保博之他(2006):心理学総合事典、朝倉書店大渕憲一他(1984):怒りの経験(1)-Averillの質問紙による成人と大学生の調査概況-、犯罪心理学研究、22(1)、15-35福田正治(2007):感じる情動・学ぶ感情-感情学序説-、ナカニシヤ出版木野和代(2000):日本人の怒りの表出方法とその対人的影響、心理学研究、70(6)、494-502平木典子(2002):ナースのためのアサーション、金子書房渋谷菜穂子他(2007):看護師を対象としたRathus Assertiveness Schedule日本語版の作成、日本看護研究学会雑誌、30(1)、79-88渋谷菜穂子他(2009):統合失調症患者の怒りの経験についての検討、日本看護医療学会雑誌、11(2)、26-38春日武彦(2001):病んだ家族、散乱した室内、医学書院渋谷菜穂子他(2014):精神科看護師における怒りの表出過程とその関連要因の因果モデルの作成、日本看護科学学会、34、340-352仕方が決められている。感情労働に関するこのような規則を「感情ルール」と呼ぶ。看護師と患者が互いの感情ルールを理解し、特に患者が看護師の感情ルールを習得することで相互行為は安定すると考えられるが、精神障害者は発症によって精神の柔軟さが失われ感情ルールを理解する余裕がなくなり、一方、看護師は感情操作や“患者を変える”のが容易でないために共感性が乏しいと患者理解が進まなくなる。また、精神科では看護師の対応は患者にとって攻撃・威嚇という雰囲気を帯びた振る舞いと映るために患者は怯え苦し紛れに暴力で対応しようとするとされている。そこで、相互理解促進のため、まず看護師が精神疾患患者の怒りの体験と看護師のそれとの差異を知ることが必要と考え、患者に面接調査を行ったことがある。その結果、1.共通点・類似点:統合失調症患者は、健常者と同様の怒りの動機をもち、建設的な動機もあることが明らかとなった。また、自分に合った対処方法を身につけており、そのほとんどが建設的な方法であるなど、健常者と共通する部分が多かった。2.相違点:怒りを示した相手との関係の深さや怒りの持続性(看護師の怒りは1日以内で収まるが、患者は6年経ってもまだ怒りを抱いていた)において、健常者とは異なり対象者の持つ妄想などの症状が一要因として捉えられた。また、怒りの原因として、騒音や他者からの言動について多く挙げられたことから、音刺激に敏感な傾向が考えられた。3.特殊性:統合失調症患者は、怒りを宥和する効果があるとされる認知的再評価ができていないことが読み取れた。これは統合失調症患者の持つ融通の利かなさや確信度の高い妄想などの症状が要因として捉えられた。 以上より、看護師が精神障害者の怒りを理解することは重要であり、自分自身の怒りをコントロールする認知行動の一助になると考える。看護師の怒りについて そもそも看護師は怒りを感じているのか?ここで、Averillの質問紙を使用して、日常生活場面と対患者場面で感じるそれぞれの怒りの強さを比較(t検定)したところ、日常生活場面>対患者場面 となり有意差がみられた。このことは、看護師が日常生活場面では対患者場面よりも強い怒りを感じていること、対患者場面においては怒り(の表出)を抑える傾向にある(意識的に抑える努力をしているのかどうかは不明)、ということを示している。そのため、実際に看護師が怒りを抑制しているのかどうか、抑制しているとしたらそうさせている要因は何か、を探る必要があるという考えに至った。 これまで、攻撃行動に至る看護師の怒りの感情に焦点を当て、ソーシャル・サポートとストレスとの関連や攻撃行動に向かう心理過程,及び怒りや攻撃性を表出する諸要因との関連を客観的・実証的に探求した研究は見当たらなかった。そこで、衝動行為(攻撃行動)に至るほどの、看護師個人では対処不可能な怒りに至った心理過程を解明することを目的に、約1,000人の精神科看護師を対象に調査を行った。精神科の看護師を対象にした理由は、精神科は基礎看護と並ぶほど看護学の中で各論の基礎と位置づけられる診療科であるとされるからである。 分析の結果、図1(右)のように、「ソーシャルサポート無し→ストレス増加→怒り喚起→攻撃性表出」という一連のプロセスを軸に、看護師の性格特性、共感性、社会的スキル、心理的負債感、自意識などの諸要因がこのプロ図1:共分散構造分析の分析結果(右)パス図:怒りの表出過程とその関連諸要因の因果モデル(左)パス図(標準化推定値)

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