GLOCAL Vol.8
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6大学生における東日本大震災の心理的影響と学生支援震災直後(震災発生~約2ヶ月)の影響と支援 震災直後,大学からの指示で学生は自宅待機となったが,3月下旬頃から徐々に大学に戻り始めた。震災発生当日に大学に残っており大地震を体験した学生は,友人と避難所に避難したり,一人で避難所に駆け込んだりした様子であった。 震災発生から新学期開始までの期間(約2ヶ月間),震災に関する問題で学生相談機関に来談した学生は,地震体験の急性反応としての「心理・身体的症状」を訴える割合が高かった(震災に関する問題でこの期間に来談したもののうちの75%が該当)。主な症状は,睡眠の問題(不眠,中途覚醒),余震後の身体の震え,揺れや物音への恐怖や過敏さ,不安の増大,食欲不振,吐き気,涙もろくなる,などであった。この期間はまだ頻繁に余震が発生していたため,揺れや物音に過敏になるなど過覚醒状態にあり,学生は,そのような身体的反応に異常さを感じ不安になっていた。 対応としては,震災後に起こりうる心身の反応について説明し,「現在生じているような心身の症状は当然の反応であること」を伝えて安心感を高めるような心理教育と,呼吸法などのリラクセーション法を重点的に実施した。多くの学生は,「異常」ではないことを知って安堵し,短期間で反応はおさまった。東日本大震災の発生と学生支援 2011年3月11日に宮城県沖で発生した大地震とその後に引き起った津波や原発事故など,東日本大震災の影響は広範に及び,各地に甚大な被害をもたらした。被災県内の大学も様々な影響を受け,震災以後,学生支援の再整備・充実化が大学における重要な課題の1つとなった。そして,震災の翌年度には,各地の大学において,震災により経済状況や生活状況が悪化した学生への授業料免除等の経済的支援が実施された。このような緊急の現実的支援に加えて,震災の影響を受けた学生への心のケアという長期的な観点からの支援も重要視されている。 震災後の学生の心理的支援に関しては,学生相談室や保健管理センターなどの大学内の学生支援機関が中心となり,支援活動が展開されている。本稿では,筆者が震災後約4年間携わった被災県内のある大学における学生相談活動を振り返り,大学生における東日本大震災の心理的影響について検討する。震災当時の状況 震災当時,筆者は,東北地方のある総合大学(以下A大学とする)の学生相談機関に所属し,学生相談活動と教育・研究活動に従事していた。A大学は内陸の都市部にあったため,大学近隣の地域も含め津波の被害はなかったが,同市内の沿岸部では大きな被害が出た。大地震発生後,都市部では,ライフラインが一時的に機能停止した。電気や水道は速やかに復旧したが、ガスの復旧には時間がかかり,1ヶ月以上の期間を要する場所もあった。建物の被害も場所によって異なっており,あまり被害の見られないところから,アパートや住居が全壊したところまで地域差が大きかった。A大学のキャンパス内でも,一部建物の倒壊や施設内機器の破損が見られ,立ち入り禁止区域となる場所があった。そのような状況のなか,新学期開始が5月に延長された。 学生に関しては,春休み中であったため,多くの学生が帰省中ではあったが,研究などで大学に残っており,大地震を体験した学生も少なくはなかった。また,東北地方出身の学生が多く,被害の大きかった地域の出身者やその地域に親類や知人を持つ学生が一定数存在した。さらに,沿岸部出身者で帰省中に津波を体験した学生も存在した。 本稿では,震災発生~2015年3月までの約4年間に,震災に関する主訴および背景に震災の影響がうかがわれる問題で学生相談機関に自主来談した学生の相談内容に基づき,大学生への心理的影響について検討する。国際人間学研究科 心理学専攻 講師堀 匡(HORI Masashi)広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。博士(心理学)。臨床心理士。専門分野は,臨床心理学,健康心理学。主に,大学生の精神的健康維持や大学不適応予防に関する研究を行っている。

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