GLOCAL Vol.8
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2016 Vol.82016 Vol.82016 Vol.811日本語話者、英語話者、バイリンガルのVOTに関する一考察考察と結論 結果、VOT長は、EL1>BL>JL1ということが明らかになった。各グループ間に大きな差が見られた。次に、英語と日本語のテスト語においては、EL1>BL>JL1の順にVOTが長くなることが明らかになった。さらに、C1の調音点による差は、英語テストではJL1とBLは/k/>/t/>/p/の順。EL1は、/t/>/k/>/p/の順であった。日本語テスト語では、3グループ全員/k/>/t/>/p/の順であった。また、C1の後続母音が英語の場合は、JL1は高母音のほうが長くなる傾向が見られ、EL1とBLでは低母音のほうが長くなる傾向が見られた。それに対して、C1の後続母音が日本語の場合は、JL1とBLは高母音のほうが長くなる傾向が見られ、EL1は低母音のほうが長くなる傾向が見られた。そして、VOT長を見る限り、日本語と英語のバイリンガルは、完全なバイリンガルと言えないという結果が出た。問題の所在 本研究では、日本語を母語とする英語学習者(JL1)、英語を母語とする日本語学習者(EL1)と英語と日本語のバイリンガル(BL)の3グループのVOT長を比較する。さらに、語頭子音の調音点の影響、及び、語頭の子音に続く母音の質の違いがVOTにどの程度影響するかを明らかにする。また、BLのVOTは日本語発話と英語発話において夫々の母語話者と全く同じなのかを検証する。実験方法 テスト語を2種類用意した。1つは英語のテスト語で、C1VC2語構造とした。C1とC2は/p,t,k/とし、Vは短母音6種:/ɪ,ɛ,æ,ɑ,ʌ,ʊ/である。また、有意味語(有意味語がない部分は無意味語)とした。他方、日本語のテスト語は、英語のテスト語をカタカナにしたものである。従って、語構造はC1V1C2C2V2となる。C1とC2は/p,t,k/である。V1は日本語に合わせて、母音5種類:/i,e,ɑ,o,ɯ/とし、V2=/o,ɯ/とした。また、日本語のテスト語の母音は英語の母音と対応するよう、/ɪ/を/i/、/ɛ/を/e/、/æ/を/ɑ/、/ɑ/を/o/、/ʊ/を/ɯ/(/æ,ʌ/=/ɑ/)として日本語の母音5つに合うように発話させた。被験者は、JL1が3名、EL1が3名、BLが3名である。3グループに2種のテスト語を静かな部屋で単独発話を5回繰り返させ、デジタル録音した。(Sampling rate:44.1kHz)計測にはPraatを用い、C1のVOT長のみ計測した。分析数は、4,455語のVOT(54語(英語)+45語(カタカナ)×5回繰り返し×被験者9名)となった。分析結果国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年1992年岐阜県生まれ。中部大学大学院国際人間学研究科(言語文化専攻)博士前期課程に在学中。専攻は一般音声学。破裂音に見られる発声開始時間(Voice Onset Time=VOT)を研究している。日本人母語の英語学習者、英語母語の日本語学習者と英語と日本語のバイリンガルのVOT長が言語話者間でどのように異なるか、また異なることで目標言語の習熟度との相関性を探る。加藤哲朗(Kato Tetsuro)図2:各テスト語C1の調音点ごとの3グループにおけるVOT平均値図3:英語テスト語におけるC1の後続母音のVOT平均値図1:各テスト語のC1の3グループにおけるVOT総平均値図4:日本語テスト語におけるC1の後続母音のVOT平均値

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