GLOCAL Vol.8
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8国際人間学研究科 歴史地理学専攻 准教授渡部展也(WATANABE Nobuya)慶應義塾大学 政策・メディア研究科修了。博士(政策・メディア)。専門は地理情報科学。特に考古学分野におけるリモートセンシングやGISの応用をテーマにしている。中国、中東の先史時代、初期王朝期を中心に考古学研究者と共同で研究を行っている。中国先史時代における人間の生業と周辺環境・資源との関係の動態をモデリングする方法が最近の興味である。遍在する地理空間情報 様々な「境界」の消失で地表の3次元形状を半自動的に計測することを可能とした。これらは3次元都市モデルや地形データの飛躍的な精緻化をもたらした。また、ドローンの利用も高い解像度の空中写真を安価に収集・計測する手段として世界で盛んに研究されている。 一方でこうした測量的な話とは別に、スマートハウスやスマートシティという形で、家や都市のエネルギーや環境のモニタリングも進められている。もちろん、これらの計測データにも「どこで」を示す位置情報が付加されており、都市環境動態の詳細かつ多様な地理空間情報が収集されはじめている。 さらに、GPSや計測機器の低価格化や地理空間情報へのアクセシビリティの向上を受けて、一般のユーザーが自分たちで計測や測量を行い、地図や情報を作成する動きも目立ってきた。もっとも有名な活動はOpen Street Map(OSM)であり、これはフリーの地図作成ソフトをもちい、世界中の賛同者の協力で無料のデジタル地図を作成しようというプロジェクトである。現在では世界中のかなりの範囲がカバーされており、データもネットに公開されているため誰でも利用できる。スマートフォンと連動する環境計測機器も販売されており、放射線量や気象、大気についての情報を収集・配信する個人も現れている。このように、様々な形で膨大な地理空間情報が日々計測・収集されており、その量も種類も加速度的に増えつつあるのが現状である。「地理空間情報」の過去と現在 地理空間情報とは地図から車の現在地まで広く位置に関わる情報を内包する言葉だが、考えてみるとこの種の情報の収集は、ついこの前までかなりの困難を要するものであった。そもそも日常的にこうした情報に触れる機会は道路地図や駅の案内図を見る程度であって、多くの人にとって地理空間情報は生活と無縁の存在であったといっていいだろう。 デジタルの地理空間情報が一般に活用されるようになった最初の応用例にカーナビをあげる人は多い。実際、カーナビは大きくは位置の計測(GNSS:全地球衛星測位システム)と電子地図による表示・ルート検索機能(GIS:地理情報システム)で構成されており、主要な地理情報技術が活用されている。もっとも、カーナビも運転という限定された条件で使用されるものであって、この普及をもっても本当の意味で日常的に地理空間情報が浸透したとは言い切れない。これ以降もIKONOSに代表される高分解能衛星の打ち上げやGoogle Earthの登場など、地理空間情報の活用における画期となる出来事はあったが、日常生活への普及というまでは進まなかったのが1990年代から2000年代初頭の実状であった。この状況はスマートフォンの登場で一変する。スマートフォンは多数の人々が日常的にもちいているという点、情報がインターネットを介してリアルタイムに収集・配信されているという点でそれまでの情報サービスとは一線を画するものであった。今や世界の20%以上がスマートフォンを持っていると言われており、今後も普及率は急速に高まっていくと予想されている。持ち歩く事が前提となるスマートフォンの場合、情報を検索しサービスを受けようとする内容は、多くの場合、今いるその場所(位置)と紐付けられる必要がある。ユーザーの動向を知りたい企業にとっても、より便利なサービスを受けたいユーザーにとっても位置情報は不可欠かつ最も基本的な情報のひとつとなったのである。地理空間情報の計測と収集 地理情報サービスを提供するにあたり、様々なスケール、種類の地理空間情報が必要となる。最近では各方面で計測技術が飛躍的に向上し、自動化・精緻化が進んでいる。例えば人工衛星を例にとれば、現在の商用衛星で最も高い分解能は31cm(Worldview―3)となっており、これ以外にも多くの衛星が1mを切る分解能を有している。また、これまで衛星による同一地点の観測には数日を要したが、同程度の小型衛星を複数個運用するSatellite constellationにより、現在では短時間のうちに再観測が可能となった。衛星画像以外にも、航空レーザー計測技術や車載型の3D計測装置は数cmから数十cmの精度

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