GLOCAL Vol.7
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2015 Vol.72015 Vol.72015 Vol.72015 Vol.73る気」を引き出すことに成功している。⑦ グローバルな経営基準の設定関係主義的な要素が強く、法治の度合いも弱いアジアにおいて、現地適応を行うことは、アジア的企業倫理・行動基準につかって企業倫理や企業パフォーマンスを低下させるリスクも存在する。同時に、日本的なタテ社会的企業倫理・行動基準はヨコ社会的なグローバル環境に適応しないという問題もある。この面で、アジア事業においても、世界のベストプラクティスの学習による経営革新が必要である。森松工業の場合、前述のように中国拠点を通じて欧米日の有力企業を顧客にすることによって、日本的な常識から見ての「驚き」を伴いながら、世界の企業倫理・行動基準を学習・実践してきた。⑧  トップの決断力と現地経営へのコミットメントアジア市場のタフで複雑で変化の激しい環境に適応して成功していくには、迅速で継続的な意思決定を行って行く必要がある。この面で、トップダウン的な中堅・中小企業はサラリーマン的な日本の大企業に対して強い優位性を持っている。経営者の資質によるところが多いが、この優位性を最大限に活用していくべきである。森松工業の場合、前述のように現地人トップに徹底的な権限移譲を行う一方で、本社トップが月の半分を現地に滞在して、現地の状況を密接に把握している。また、現地工場に多数のウェブカメラを設置して、圧倒的な技術知識を持つ経営トップが日本で常時ウォッチして、アドバイスを行っている。このような成功要素は、個別に重要であるだけでなく、相互に関連している。これらを連動させることによって好循環を生み出すことが重要である。参考文献冨山和彦(2014)『なぜローカル経済から日本は甦るのか』PHP新書舛山誠一(2015)『森松工業の中国ビジネスの成功要因』貿易風 Vol.10企業にとって、生産管理は比較的得意分野であるのに対して、マーケティングは大きな弱点であり、大企業依存の強い中堅・中小企業にとっては、とりわけそうである。この克服が必要である。森松工業の場合、1990年中国進出前の1987年に商社部門を設立し、海外営業機能を創造した。上記の様に開発した高付加価値製品を欧米企業に販売することによって売り上げを増大させた。さらに、中国で優秀な人材を採用して国際マーケティング機能を強化することによって、中国のみならず全世界へのマーケティング活動を行っている。④ 経営の自立化上記のようなマーケティング機能の強化による顧客の多様化を行うためには、系列・大企業依存を脱却した経営の自立化が必要である。グローバル化によりタテの企業間の関係よりヨコのネットワークが重要になり、これに対応する自立的経営が必要である。⑤ リスクコントロール財務基盤が弱く、また企業規模が小さくて複数市場への分散が困難な中堅・中小企業にとって、アウェイの外国市場において生存していくためには、リスクコントロールが重要である。代金回収の確保に加えて、先にあげたようなマーケティング機能の強化などによる現地に進出している欧米企業などへの顧客の分散などもリスクの低下につながる。森松工業の場合、前述のような顧客業種の多角化・世界市場への多角化を徹底して、全世界・全業種顧客への販売を行っている。また、顧客を選別し、代金回収策を強化することによって、中国の現地企業への販売も拡大している。⑥ 人的資源管理の革新長期雇用・年功序列的な日本的人的資源管理は、良いところもあるが、世界的には特異であり、雇用の流動性が高く、慣行も異なる外国ではなかなか通用しない。また、市場獲得へと進出の目的が変化し、マーケティング、研究開発などにより多くの知識人材を雇用することになり、これら人材のパフォーマンスを上げるために、現地化に加えて、世界のベストプラクティスを取り入れた人的資源管理の革新が必要となる。森松工業の場合、経営陣の徹底的な現地化、人的資源管理システムの現地化と世界のベストプラクティスを取り入れることによる透明性・公平性の徹底を行い、現地従業員の「や

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