GLOCAL Vol.6
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13国際人間学研究科 心理学専攻 教授小川 浩(OGAWA Hiroshi)1971年名古屋大学大学院教育学研究科教育心理学専攻修士課程修了。「成人男子の紙巻きたばこ喫煙と健康状態」で医学博士(名古屋大学)を取得。愛知県がんセンター研究所疫学部でがんの疫学研究に21年間従事した。研究領域は健康心理学、喫煙対策、がんの疫学など。著書(共著)は「喫煙と健康」、「行動科学と医療」、「がんの民族疫学」など。紫煙の向こうに「幸せ」はあるか刺激を求める喫煙者外向的性格を喫煙者の特徴としてはじめて明確に示したのは、英国の高名な心理学者アイセンクEysenk, H. J.である。彼によると喫煙者は刺激飢餓の状態にあり、喫煙は彼らにとって格好な刺激追求の手段であると述べている(Eysenk, 1964)。外向性extroversionはアイセンクの性格理論を構成する基本性格次元であり、外向性は大脳皮質下の網様体の賦活水準と関係があると彼は考えている。図1に示すとおり、一般にヒトは強い刺激や、逆に無刺激の状態を不快なものに感じ、最も快く感じる刺激強度の適正水準があり、この適正水準は網様体の賦活水準と関係があって個人差が大きい。脳波計によるα波の出現や、中枢神経刺激物質の効果に外向的な者と内向的な者で差が認められており、アイセンクは、内向的な者にくらべて外向的な者の方に網様体賦活水準が低いとし、外向的な者は外部刺激を取り入れることによって、内喫煙は災いのもと喫煙は多くの人命を奪い、QOL(幸福感)を低め、経済損失を個人と社会に及ぼす。たばこの煙は発がん物質、一酸化炭素、ニコチン、粘膜刺激物質など有害物質を多種多量に含み、がん、心臓血管疾患、胎児発育不全、肺気腫などの身体疾患や、「ニコチン依存」および「ニコチン離脱」といった精神行動障害を引き起こすことは、膨大な数の疫学、臨床医学、動物実験などの研究から明らかである(厚生労働省, 2002)。英国男性医師3万4千人を50年間追跡した研究によると喫煙者は平均10年早死にしている(Doll, et al., 2004)。喫煙は一時的な快感を与えるが、長期的には心身の疾患をもたらすものであり、幸せとは縁遠い行為である。貝原益軒は「養生訓」の中で「寿きは万福の根本なり」とし、喫煙の有害性を指摘している。喫煙者のプロフィールたばこの煙を吸うだけで、これだけ広範囲に健康影響が及ぶのだろうか、たばこを吸う人の何か特徴も影響しているのではないだろうかと筆者は考えて、ずいぶん以前に喫煙者の特徴に興味を持って調べたことがある。文献調査からは表1に示すように、社会経済的地位は低く、社会移動が多く、外向的で不安定な性格傾向にあり、高身長でやせ型、活動的で、コーヒーや酒をよく飲み、高カロリー高蛋白質の食物摂取量が多いといった特徴が浮かび上がった(小川, 1991)。また、某市職員の健康管理質問紙調査の回答を分析して喫煙者の特徴を洗ってみた。禁煙者を除く対象者約2,500名を非喫煙者、軽度喫煙者(1-19本/日)、中度喫煙者(20-29本/日)、重度喫煙者(30本以上/日)の4群に区分して、調査項目の回答率を算出し、喫煙量が増えるにしたがって回答率に有意な直線増加勾配を認めた調査項目などを拾い出してみた。その結果、各種身体症状の訴えが多く、表2に示すとおり外向的性格傾向にあり、感覚刺激を求めて飲食する傾向がうかがえた(小川, 1980)。表1 喫煙者のプロフィール ―欧米の文献から―表2 喫煙者の性格および飲食習慣の特徴図1 喫煙者は外向的で刺激を求める

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