GLOCAL Vol.5
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2014 Vol.52014 Vol.53 それらの研究結果は、コミュニケーション能力の低下が問題視される今日において、運動場面を用いて、情動知能を効果的に向上させていく指導法への一助となると考えられる(第5章、第6章)。謝辞 学位を取得するにあたり、最後まで丁寧に研究の方向性や詳細についてご指導くださいました、指導教授の速水敏彦先生、副指導教授の小川浩先生、吉住隆弘先生、学外の審査員としてもご指導くださいました小塩真司先生(早稲田大学)に感謝申し上げます。また、報告会や公聴会でもご意見頂きました国際人間学研究科の先生方にも御礼申し上げます。今後、研究活動を進めていく中で、少しでも恩返しができるよう努力していきたいと思います。引用文献ダニエル・ゴールマン(1996)土屋京子(訳)EQ~こころの知能指数~.講談社:東京.Goleman, D.(1995) Emotional intelligence. : Why it can matter more than IQ. Bloomsbury : London.Mayer, J. D., and Salovey, P.(1995)Emotional Intelligence and the construction and regulation of feelings. Applied & Preventive Psychology, 4, 197-208.Mayer, J. D., and Salovey, P.(1997) What is emotional intelligence?. In P. Salovey & D. Sluyter(Eds.), Emotional development and emotional intelligence:Educational implications, Basic Book : New York, 3-34.文部科学省(2011)子どもたちのコミュニケーション能力を育むために~「話し合う・創る・表現する」ワークショップへの取組~.コミュニケーション教育推進会議審議経過報告.(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/08/1310607.htm)Salovey, P., and Mayer, J. D. (1990) Emotional intelligence. Imagination, Cognition and Personality, 9 : 185-211.内山喜久雄・島井哲史・宇津木成介・大竹恵子(2001)EQSマニュアル.実務教育出版:東京.動知能の合計点と「自己対応」、もう一方の集団でも合計点と「自己対応」「状況対応」の有意な向上が明らかになった。したがって、運動能力や目標が異なる集団では、運動能力のレベルや熱心度により、運動経験要因と情動知能の得点への影響は異なることが明らかになった。これらの結果から、運動能力の変化とともに、自分自身への動機づけや、その集団での自分の社会的地位などが変化することにより、情動知能への関連も異なってくることが考えられる(第2節)。3.運動指導と情動知能の意識の関連(第4章) これまでの研究では、習い事や部活動という運動経験に着目してきたが、全児童に共通に与えられる運動の機会として、体育の授業に着目した。中学校や高校では保健体育の専門教員が体育の授業を行う。また、近年では幼稚園でも内部や外部の体育の専門教員が運動指導を行うことが増えている。一方で、心身の重要な成長の時期である小学校での体育の授業においては、体育の専門教員でないことが多い。そこで、小学校の教員の指導の意識が重要であると考え、教員の体育の授業における情動知能や指導法への意識を調査した。 その結果、指導歴と性別による分析から、指導法に関する中でも児童の意見を聴こうとする「傾聴」の因子にのみ有意差が認められた。指導歴中期間の男性教員が指導歴短期間の男性教員よりも有意に高い意識を持っており、指導歴中期間の教員の中では女性よりも男性教員が有意に高い得点を示した。しかし、情動知能への意識などその他の項目においては、性別や指導歴による有意な差はなく、個人の意識の差によるものであった。  また、情動知能への意識と指導法への意識には、どの要因においても有意な正の相関が認められたことから、指導法への意識を高めることが体育の授業での情動知能への意識を高めることへもつながることが考えられる。情動知能と指導法への意識としては、全体的に肯定的な高い得点が得られたが、自由記述の内容からは、45分という授業時間や、安全面への意識で、情動知能に関するような意識まで及ばないという回答も得られた。総合考察と今後の課題 これらの調査結果から、運動経験と情動知能の関連として、大学生を対象とした縦断的、回顧的な検討から、運動を継続することによる情動知能への影響として、運動を経験する時期や集団、性差による新たな関連性を示す結果が得られた。 また、大学生を対象とした研究が多くみられた先行研究の中、本研究では児童期の運動経験にも着目した。児童期の低学年と高学年による情動知能への意識の変化を明らかにし、運動とその他の習い事による要因では、情動知能に与える影響は異なり、他の経験よりも運動経験が情動知能を高めるためには有効であることが示唆された。さらに、運動能力の向上と情動知能への影響においても、集団や性差によって関連の仕方が異なることも明らかになったことは、本研究の大きな成果であると考えられる。 指導側に着目した研究結果からは、指導歴や性別による差は「傾聴」に関する項目のみで、個人による意識の差が影響することが示された。また、情動知能への意識と指導法への意識には関連性があることも示された。体育を苦手とする教員もいることは考えられるが、その授業を受ける児童のためにも、効果的な指導法として学習指導要領とともにガイドラインを示すことが有効ではないかと考えられる。今後、指導法に関する具体的な効果と、調査対象者を中学生や高校生とし、思春期の運動経験と情動知能の関連についても、より具体的な要因を明らかにしていく必要がある。 また、研究方法としては、調査対象者の人数をさらに増やすこと、群分けの更なる検討を行っていくこと、長期の縦断的調査を継続していくことなどから、運動経験が情動知能の効果的な向上につながることを明らかにしていくことが求められる。

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