GLOCAL Vol.5
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10就職難で苦闘する現代青年は「不幸」かキャリア発達心理学の視点から高めることを明らかにしている。 また、大学生は長期にわたる就職活動でさまざまな不安に直面するが、そうした不安は就職活動中にとどまらず、就職活動の準備段階や決定後にもあらわれストレスとして蓄積する。日本学生支援機構(2011)によれば、大学の学生相談によせられる相談内容として、「進路・就職」が「対人関係」に次いで相談件数が増加していると認識されている。これらを勘案すると、大学卒業後の進路を決定する過程で個人内では対処できないほどのストレスが、個人に蓄積されているといえるだろう。 このように現代大学生は、大学から職業社会への移行過程で多くの困難に直面する。こうした移行環境は多大なストレスを与えることから、大学生にとって心身穏やかに受け入れられる「幸せ」な環境とは言えないだろう。就職難で苦闘する大学生は 「不幸」か? ただし、中学生や高校生、学校中退者、学卒無業者、フリーター、中高年の転職希望者、定年後の再就職希望者などの就職活動と比べると、大学生の就職活動は困難とはいえない。若松・下村(2012)によれば、大学生の就職活動は新規学卒者一括採用という雇用慣行により、他の立場よりも有利であることを指摘している。具体的には、大学生への企業の求人数が相対的に多いこと、大学生の就職活動のスケジュールがある程度決まっているた現代青年の移行の特徴 平成26年度学校基本調査によれば(文部科学省, 2014)、平成25年度学校卒業者(平成26年3月)の就職率は、中学卒業者で0.37%、高等学校卒業者で17.44%、大学卒業者で69.83%となった。中学卒業者の高校進学率が98.41%、高校卒業者の大学進学率が53.79%であったことを勘案すると、さまざまな学校段階の中でも大学から職業社会への移行の比率は大きい。そのため、現代青年における職業社会への移行を検討する際、大学から職業社会への移行がしばしば注目されてきた。 近年、こうした大学から職業社会への移行は、非常に困難な状況にある。1951年以降70%以上を維持していた就職率は、ここ20年間55~70%に停滞している(Figure 1)。若松・下村(2012)は、現代青年の就職状況が彼らの親世代と比べて大きく変化したことを指摘している。たとえば、企業社会の競争が激化し、企業社会への間口が狭小化し、正規就労が困難になった上に、新規学卒者に求められる水準が高くなるなど(若松・下村, 2012)、大学生の就職状況は非常に困難であるといえるだろう。 こうした厳しい状況下で行われる就職活動は、現代青年にさまざまな身体的・精神的ストレスを引き起こす。たとえば藤井(1999)は、「就職決定および就職活動段階において生じる心配や戸惑い、ならびに就職決定後における将来に対する否定的な見通しや絶望感」を就職不安として概念化した。その上で、この就職不安は大学生のストレスや抑うつを国際人間学研究科 心理学専攻助教杉本英晴(SUGIMOTO Hideharu)名古屋大学院教育発達科学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は教育心理学、発達心理学。青年から成人への発達過程を、個人が有するソーシャルネットワークによっていかに教育・支援可能かを検討している。近著は、『詳解大学生のキャリアガイダンス論:キャリア心理学に基づく理論と実践』(共著)(2012, 金子書房)。Figure 1. 大学卒業者の就職者数・就職率の推移出典:「平成26年学校基本調査」(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001015843&cycode=0)から転用。

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