GLOCAL Vol.5
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2014 Vol.52014 Vol.52014 Vol.52014 Vol.59機づけにつながり、逆にそのような夫婦間、家族間での気持ちのやり取りがないと家事は義務的で重荷になるものではなかろうか。また、生活習慣で家事をする場合は家庭を大切に思っている(価値をおいている)こともわかった。 ところで竹信(2013)は家事ハラ(家事労働ハラスメント)というような言葉を用いているが、それは会社等での生産的で報酬を伴う仕事を人間の図の行動、あるいは表の行動とすれば、家事を地の、あるいは裏の行動と低い価値づけをしているために生じた言葉のように思われる。それゆえ、最近では家事を外国人に任せて女性を職場でもっと活用しようとか、家事はロボットに任せたらとか炊事は宅配に依存しようというような議論もうまれている。しかし、地の行動の部分を他者や機械に担わせれば、図の部分がめざましく機能し、人はより幸福感に浸ることができるだろうか。私は否と考える。上のような考えはある意味、市場主義に毒された見方であろう。金に換算できる仕事だけをするようにした時に、生活の潤いは消え、家庭での人間関係が崩壊に近づくのではなかろうか。家事には金銭換算ができないが、それがなくては生命維持や人間らしい尊厳ある生活が持続できない多くの仕事が含まれ、それをめぐって夫婦が協力し、コミュニケーションすることで日常的な幸福感が生まれていよう。そして、家庭から生まれる幸福感が人の生活の図の部分ともいえる会社等での動機づけにも反映するものと考えられる。家事は短期的にみれば確かにプラスマイナスゼロかもしれないが、それをめぐって様々な人間関係が展開されるなかで、幸福感や逆に不幸感が蓄積されると推測される。そして、それは家庭外のいわば図としての仕事の動機づけにも影響を及ぼすものと思われる。参考文献近藤勝重 特集ワイド:ゆうかんなトーク 「女の気持ち」より 中高年女性の幸福感 毎日新聞 2010年12月3日夕刊速水敏彦・小平英志・青木直子 2013 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)研究成果報告書竹下三恵子 2013 家事労働ハラスメント-生きづらさの根にあるもの 岩波新書てはまる)はそれぞれ2.89,2.59,3.66,3.72,3.57となった。つまり、興味関心・効力感因子や義務感因子に比べて生活習慣因子や生活必要感因子、代替者不在感因子のほうがよりあてはまると回答されている。 次に就労群と専業主婦群の各動機づけについてみたところ、いずれの動機づけについても専業主婦群の方が高いことが明らかにされた。現実の家事量と各動機づけの高さとの関係は図1に示されるように炊事量、洗濯量、掃除量いずれについても生活習慣、生活必要感、代替者不在感の動機づけの方が興味関心・効力感、義務感の動機づけよりもその相関が高い傾向にある。すなわち、興味関心・効力感と義務感の動機づけは実際の行動にあまり反映しない。        パーソナリティに関しては、どの動機づけについても協調性や勤勉性が高いほど高いことが示された。また、価値づけに関しては家庭に価値を置く程度との関係について生活習慣因子とは.4に近い高い正の相関がみられたのに対して、代替者不在感とはほぼ無相関であった。 図2は家事の動機づけと人間関係に関連した変数との相関を示したものである。家族の家事行動量についてはどの動機づけとも負の相関が示された。本人の動機づけが高いほど家族の家事行動量は低いといえる。家族の正のフィードバックとの関連は代替者不在感のみが負の相関で、残りは正の相関を示していた。つまり、代替者不在感の動機づけが高いほど家族からの感謝やお礼などのフィードバックが少ないといえる。夫婦関係満足度、家族関係満足度に関しても興味深い結果が示されており、代替者不在感だけで負の相関が認められた。つまり代替者不在感の高い人ほど夫婦関係満足度や家族関係満足度が低くなっていた。一方、特に興味関心・効力感や生活習慣では夫婦関係満足度や家庭関係満足度が高いほどそれらの動機づけも高いことが示された。 主観的幸福感との関係については興味関心・効力感、生活習慣、生活必要感の順に高い正の相関がみられた。興味関心・効力感因子と主観的幸福感の相関が高いのは当然であるが、生活習慣因子との間にも.3に近い相関が示され、無意識的に家事をしている人が幸福感を感じていることが示唆された。一方、代替者不在感とは負の相関がみられた。図と地の行動を媒介する幸福感 先の調査から家事を生活習慣として無意識的に動機づけられてしている場合は、家族からの正のフィ-ドバックをうけ、かつ夫婦関係も家族関係も満足のいくものである場合であったのに対して、代替者不在感から家事をしているのは家族からの正のフィードバックがなく、夫婦関係も家族関係も不満である場合であった。主観的幸福感は前者とは正、後者とは負の関係にあった。これは家事の動機づけの性質は人間関係からくる満足感や幸福感により規定されているためと推測される。たとえプラスマイナスゼロの仕事であっても良好な人間関係があれば、無意識的に行動できる、しかし、人間関係に不満があれば、「代替者がいないから」といったかなり悲壮な気持ちで家事にむかわざるをえないといえる。家事は金銭による評価換算ができないため対人的な評価に転化されやすい、すなわち、無意識的であれ、家事をしてくれる配偶者に感謝したり、家事を手伝ってくれる配偶者をうれしく思ったりすることが望ましい家事の動00.10.20.30.40.50.6興味関心・効力感義務感代替者不在感生活必要感生活習慣炊事量洗濯量掃除量図1 家事の動機づけと自分の家事量との相関関係図2 家事の動機づけと人間関係(相関係数)-0.7-0.6-0.5-0.4-0.3-0.2-0.100.10.20.30.4興味関心・効力感興味関心・効力感義務感義務感生活習慣生活習慣生活必要感生活必要感代替者不在感代替者不在感家族の家事行動量夫婦関係満足度家族関係満足度

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