GLOCAL Vol.4
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26接点を見出し、そこから問題を共有して考察に及んでみるという機会を増やすことも時には必要であると思います。そのような機会を設けることは独創的な研究の開発・進展に役立つでしょう。私自身も大学院で地理学を十分に学ぶという経験がなく、歴史学と地理学の方法を用いながら分析する手法を十分に身につけておりません。よって、自分自身も知識を深めていく必要があります。 地図から歴史を読み取る方法論や、GISを用いた地域の歴史的な推移の復元、歴史学・地理学の方法論を取り入れた地域調査の新たな方法論の構築など、これまでにあまり行われていない学問の方法を本専攻で学んだ院生が構築し、新知見をもたらしてくれたら、非常に嬉しく思います。 本学には理系の学部があり、多くの研究者と研究施設に恵まれています。本専攻で学んだ院生がそれらをも大いに活用し、その知識や技能を用いてよりよい社会を創造してくれたら、喜ばしい限りです。将来の展望としては、地域を分析する有効な方法論を新たに構築していく研究の拠点として、本専攻が学界や世間に認知され、社会で活躍する有望な人材を数多く輩出していくことです。それを早く実現できるように努力する次第です。おわりに 以上、自らの研究や教育、本専攻の展望について述べました。大学院で学ぶには学部生のときから真剣に学問に取り組むことが重要です。そのような熱意のある学生が多く集まってくれることを祈念しています。されていませんでしたが、2001年に刊行された『愛知県史 資料編8 中世1』によってはじめて編年の資料集が刊行されました。現在では古代から織豊期(1600年)までの編年の資料集が刊行され、史料の検索が容易となりました。地元の歴史に深い関心を寄せる人々だけでなく、生涯学習や学校教育の現場でも使いやすい資料集として好評を得ています。 『新編安城市史 資料編 古代・中世』の編さんでは、掲載史料に読み下し・語注・解説をつけ、理解の便宜をはかりました。当時、このような説明を施す自治体史は全国的に見ても数例しかありませんでした。史料の読み下しや解説の執筆は多くの労力を要しますが、自治体史編さんの事業を通じて、人々に新たに解明された史実を提示しつつ、ともに東海地域の歴史的展開を考察していきたいです。 室町・戦国時代の守護斯波氏の活動や一向宗の展開から、東海地域は北陸との結びつきが深いので、余力があれば、北陸を含む中部地域の歴史を一体的に読み解けるように目指します。個人的には全国統一を果たしていく織田、豊臣、徳川といった大名がなぜ東海地域から生まれたのかといった、東海地域の特質などに迫っていければ、と考えています。大学院における教育 教育の目標は講義や演習を通じて、院生が現在の価値観にとらわれずに、従来にない新たな歴史像を発見でき、視野の広がる喜びを実感してもらうことです。史料を読解する演習では、新たに発見した内容を論文にまとめて学術雑誌に掲載できる水準に達することを目指しています。また、未活字史料の翻刻・発表も院生にさせてみたいところです。 前近代の日本史を学ぶ院生には時々見受けられることですが、自分の研究が現代社会においていかなる意味をもつのか十分に意識していないことがあります。それは現代社会に対する問題意識を十分に備えておらず、その克服への考察も取り組んでいないために、もたらされています。 問題意識を高めるためには講義や演習を通じて、どのような課題を設定して史料を読み解いていくか、その営みの社会的な有用性を備えるように意識させていくことが重要です。このことは中世史の分野ではなかなか難しく、あまり強要すると逆効果になりますが、自由・平等・平和・ジェンダーなど諸々の問題について、現代社会との連関を強く意識させる機会を意図的に設けてもよいのではないかと思っています。 その上で、現時点の最新の研究成果から、どのような問題点や課題があるのかを発見させ、新たな歴史像を打ち出す構想力をしっかりと身につけさせたいと考えています。論理の構築や文章の表現力を高め、将来を担う社会人として、大学院で歴史学を学んだことが自分の人生にとって、非常に有意義であったと実感できるような教育を心がけて実践していきたいです。歴史学・地理学専攻の展望 歴史学と地理学は時間の推移と空間のあり様を捉える上で密接な関わりがあり、地域を分析・把握する上で非常に有効な学問と言えます。人文学部歴史地理学科では、歴史と地理を同時に学ぶという他大学にはないカリキュラムが展開されており、両者の視点から対象を分析する方法論を培うことが可能です。 本専攻はその視点をさらに発展させる研究教育機関であり、これまでにない独創的な研究方法を構築する可能性を秘めています。本専攻は歴史学・地理学の各領域の研究者がそろっているので、院生にはその専門的知識・技能を大いに吸収し、分析能力を高めていくことを期待します。 そのためにも教員自らが専門の枠にとらわれずに、他の研究領域との交流によって、新たな研究成果を打ち出していく姿勢を院生に示していくことは重要なことでしょう。他の専門領域の院生の研究活動に参加させてみたり、議論などをしたりして、お互いが研究の歴史学・地理学豊田市史編さんに伴う史跡調査

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